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辺りを見渡しながら、女が声を発した直後。
「…すみません、ちょっとどいてもらえます？」
黒羽は集まる人だかりを掻き分けながら、そう告げた後
「この方…持病だとかはありますか、」
側にいた伴侶と思われる女に対して、そう尋ねる。
「持病は…持ってない筈だけど…、」
女が黒羽の問いに対して、そう答える中
黒羽は喉元を押さえ、苦しむ男の姿へと目を向ける。
呼吸音の異常と皮膚の変色を確認した後、
「全く…手のかかる人ですね、____」
黒羽は軽く溜息を溢しながらも、男の身体を一旦起こし
背後へと回ったかと思うと、みぞおち付近を締め付け、上部へと数回突き上げる。
「___…ッ、」
すると、男は顔を伏せ、咳をし始めたかと思うと
咳と共に、先程まで気道を塞いでいた異物が取り除かれる。
黒羽は男の背中を優しい手付きで撫でながら、側にいた女の方へと目を向けて
「…ひとまずこれで大丈夫だとは思いますけど、一応診てもらった方がいいかと。」
「確かこの付近に、診療所が____」
黒羽がそう言い掛けた時だった。
女の声を聞き付けた通行人が、あらかじめ医者を呼びに行っており
黒羽は駆け付けた医者に対して、男の容態を説明した後
「では、私はこれで。___」
女に会釈をし、何事もなかったかのようにして背を向ける。
「あ…待っておくれ…っ、！」
すると、女は引き留めるようにして黒羽の腕を掴み
「うちの主人を助けてくれて…本当にありがとう、」
微笑み掛けながら、黒羽に対してお礼を告げたかと思うと
女は黒羽の顔を覗き込むようにして、その場に屈み
「それにしてもアナタ…まだ若いのに凄いのねぇ。随分と冷静というか…、頭の良さそうなお顔もしているし…」
「アナタは将来…きっと良いお医者様になるわね。…さっきのお礼とアナタの前祝いも兼ねて、これを受け取って頂戴。___」
そう言って、女は懐から取り出した包みを黒羽へと手渡す。
「……」
黒羽はその言葉を受け、一瞬視線を落としながらも
すぐさま女の方へと視線を戻し、微笑を浮かべながら
「…旦那さんに言っておいて下さいね。あまり物を詰め込みすぎず、しっかりよく噛んで食べろと。」
「それでもまた…詰まらせるような事があれば、その時は…私の所に診せに来てください。」
「私が代わりに、旦那さんを叱ってあげますよ。___」
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作者名：雫 | 作成日時：2023年9月18日 10時
