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___黒羽はかつての記憶を思い出した後、
「(カナエさんの命日も…もうすぐか…。)」
先程手に取った紅色の櫛へと目を向けて、ふとそんな事を思う。
するとそこへ、誰かの足跡が近づいて来たかと思うと
「__紫、」
聞き慣れた男の声が耳へと届き、
「あ…不死川さん、意外と時間掛かりましたね。」
黒羽は手に持っていた櫛をもとの位置へと戻し、不死川の方へと歩み寄る。
黒羽は不死川が抱える花へと目を向けたかと思えば、
それを奪い取るようにして手に取り、
「時間かけた割には…アンタ、微妙な花持ってきましたね…。もっといいのあったでしょう、」
「うるせェ、文句あンならお前が選べば良かっただろォ」
「これだから素人は…全く___」
黒羽が花を眺めながら、そう言い掛けた時だった。
黒羽は渇いた咳を一度放ったかと思うと、
「____…っ、」
口元を手で押さえながら、二度、三度続けて空咳を放つ。
それを目にした不死川は、思わず黒羽の手首を掴むものの
「…何ですか、」
きょとんとした様子で、黒羽にそう尋ねられる。
…黒羽の手には血が付着した痕などはなく、
「少し顔近づけすぎましたかね…、花粉吸い込んじゃいました。」
淡々とした口調で黒羽がそう告げる中、
不死川はハッとした様子で、咄嗟に掴んだ手首を離し
「…悪ィ」
決まりの悪そうな表情を浮かべながら、黒羽に背を向け一人先を歩く。
「………」
黒羽はそんな不死川の後ろ姿を見つめながら、
『不死川くんが優しいかどうかは…あなたの目で確かめてみなさい。きっとすぐに分かるわ、____』
かつて、カナエが話していた言葉を思い出しながらも
「(…馬鹿なお人ですよね…本当、____)」
ふとそんな事思った後、不死川のもとへと駆け寄り
「…アンタ、なに人に花預けて先行こうとしてるんですか。自分で持ってくださいよ、」
先程、奪い取った花を不死川へと押し付ける。
「人聞き悪い事言うなァ…お前が奪い取___」
「無駄口叩いてないで…早く行きますよ。ただでさえ、アンタの花選びで時間掛かってるっていうのに…」
そう言って先を歩く黒羽の態度に、不死川は若干の苛立ちを感じながらも
「…一人で先行くンじゃねェ。」
隣へと移動し、黒羽と共に故人が待つ墓へと向かっていった。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年9月18日 10時