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____日を追う毎に漏れ始め、いつしか空になる事は分かっていた。
違和感を覚え始めたあの日から、既に答えは見えていた。
どれだけ懸命な治療を施し、効果のある薬を作り出したとしても
根本的な原因を断ち斬らなければ、何も救う事など出来ない。
アイツは…私に対して『人を救える力がある』とそう言ってはいたが
その言葉は私の心を抉りに抉り、
『____き…、…』
アイツの方が何人も…何十人も、何百人も人を救える力があって
強い鬼を倒せば倒す程、助かる命は増え続ける。
一方、私がやっている事はその場凌ぎの事でしかなくて
たとえ命を繋ぐ事が出来たとしても、次帰ってくる時は…変わり果てた亡骸をただ眺めるだけで
どうしようもない無力感に囚われ、私のやっている事に意味など何一つ見出せやしない。
____何が…『人を救える力がある』だ…。
私には…アイツのように、皆を救う力なんてない。
『ッ…嘘吐き、___』
顔を上げ、そんな言葉を吐き捨てると同時に
側に転がる瓶を手に取り、勢いよく叩き付ける。
その際、割れた瓶の破片が手に刺さり、血がだらだらと流れはしたものの
痛みを感じる余裕もなく、次々と瓶を叩き割った。
硝子の破片が散らばる中、とある小瓶を手に取った際、僅かな重みを感じ
視線を移すと、そこには鬱陶しいくらい色鮮やかな…アイツから貰った金平糖が入っていた。
短く舌打ちをし、躊躇う事なくその瓶も叩き割ろうとはしたものの
あの時、アイツが見せた…あの顔が脳裏に浮かび
『…ッ…、…』
振り上げた腕を下ろすと同時に手の力が抜け、
手放した小瓶が床へと転がる中
顔を伏せ、血だらけの拳をきつく握りしめる。
『…気に食わない、』
…何故、アイツという存在にここまで乱されなければいけない。
アイツから貰ったこんな物、他の瓶と一緒に叩き割ってしまえばいいというのに
それが出来ない自分に、心底腹が立つ。
『あんな奴…早く死ねばいいのに…っ』
苛立ちと共に、そんな言葉を吐き捨ててはみるものの
畳の上には、まばらに雫が零れ落ちるばかりで
手に突き刺さった硝子の破片は、微塵も痛くなかったというのに
アイツに放ったその言葉は、跳ね返って自分の心に深く突き刺さり
どうしようもない程、痛くて…堪らなかった。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年9月18日 10時