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___某日、何やら慌てた様子で、アオイが駆け寄って来たかと思うと
『紫、大変…!昨日運ばれてきた隊士の容態が急変して…それで…、____』
医療器具を持って、すぐさま隊士のもとへと向かい
『(不味い…脈が弱まってる…、)』
胡蝶姉妹が不在の中、何とかその命を繋ぎ止めようとするものの
『___アオイ、後は私がやっておくから…他の業務に移っていいよ。』
補助を務めてくれたアオイにそう声を掛け、使用した器具を片付けて行く。
静まり返った部屋に残るのは、冷たくなった亡骸と
何も救う事など出来ない無能な自分。
その後はいつも通りの業務を済ませ、自室へと向かう途中
嫌でも見慣れた白髪と、その周りを囲む数名の隊士が目に入り
『不死川さん…先程の任務では、危ないところを助けていただいて…本当にありがとうございました…!』
『不死川さんがいなかったら…私達、きっと今頃____』
そう言って涙ぐむ隊士に対して、アイツは慰めの言葉を掛ける訳でもなく
『…礼なんて要らねェからよォ、早くその怪我診てもらえェ。____』
立ち去ると同時にそんな言葉を投げ掛け、
腰に刀を携えながら、そのまま次の任務へと向かっていた。
数名の隊士たちはそんなアイツを見送った後、
戻ってきたカナエさんが待つ、診察室へと向かいながら
『不死川さん、やっぱり凄いよな…実力は勿論だけど、器量もあるというか……ああいう人こそ、柱に相応しいよな。』
『そうね、不死川さん…確か階級『甲』みたいだし、あの人ならきっと…もうすぐ柱になるわよ。____』
隊士たちがそんな会話をしながら、すぐ横を通り過ぎる中
自室へと向かい、静かに襖を閉じる。
そして、いつものように書籍を手元に寄せ、ページをめくろうとするものの
ビリっと紙が破ける音が、部屋の中へと響き
『……ッ』
書籍の上にはポタポタと雫が落ち、文字が滲んでいく。
破いた紙と共に拳を握り締め、書籍を放り捨てた後は
置いていた瓶を落とすようにして、机上から払い
その際いくつかの瓶にヒビが入り、液体が漏れ出しはしたものの
『(もう…どうでもいい…____)』
溢れ始めたその思いに蓋をする事は出来ず、
机上へと突っ伏し、視界に入るもの全てを遮った。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年9月18日 10時