愛した人 ページ49
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けれど、そんな日々も永遠とは限らず
待ち望んでいた『明日』が急に来なくなる事もある。
ただ、彼に至っては…その変化は急激なものではなく
日に日に衰弱し、その日が来てしまう事は予測できた。
彼が最期に遺した言葉は、私に対する感謝と謝罪と
『 愛してる 』
たった一言なのに、深い重みが感じられるその言葉。
彼は私と過ごした三年間…『幸せだった』と心からそう言ってくれた。
それと同時に、私を一人遺していく事に申し訳なさを感じていて
「(最期まで…優しい人だった…。)」
そんな事を思いながら、おはぎを供えた…彼の墓へと目を向ける。
辛くない…と言ってしまえば、それは嘘になってしまうだろうけれど
でも、私は…これからも前を向いて歩いていける。
何故なら、心の優しい彼は私が寂しくないように
「「 母さんー!! 」」
こちらに駆けてくるのは、瓜二つの子供たち。
年も同じで背丈も同じ、目元の…長い睫毛も同じ。
違うのは髪色と瞳の色くらい。
「母さん、このおはぎ食べてもいい?」
「ダメだよ、『華月』!これは父さんのだから…」
「俺は母さんに聞いてるんだ、『実月』には聞いてない。口挟んでくるなよ、」
「そんな言い方しなくたっていいだろ!それと、俺の方が兄貴なんだからな。黙って言う事聞け、」
「兄貴って…俺ら双子だろ、大して変わらないよ。それに、実月よりも俺の方が心は大人だ。だから俺が兄だ、____」
そんな言葉を交わし、睨み合う我が子を眺め
「(この喧嘩っ早さは…どちらの遺伝だろうか…、)」
頭を悩ませつつも、二人にはしっかりとお灸を据え
墓参りを終えた後は、我が子に挟まれ…手を引きながら屋敷の方へと向かう。
「母さん、俺らの父さんって…どんな人だったの?」
その問いに答えながら、緩やかな風が吹く道を歩き
「母さんは…今、寂しく…ない…?」
不安そうに此方を見つめる、我が子の問いに対しては
一旦歩みを止め、目線を合わせてしゃがみ込む。
「実月…華月、母さんは…今とっても幸せ。」
「だって二人に、出会う事が出来たから。____」
貴方が遺してくれた二つの宝物を握りしめ、
今日も私は、貴方を愛したこの世界で生きる。
⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ fin.
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よっしー(プロフ) - はじめまして!実弥が好きでこの小説に出会い、春雷と星屑を一気読みしちゃいました!面白かったです!どちらの作品もすごく良かったので、また他の作品も楽しみに読ませていただきます!久々にキュンキュンしましたー✨ (9月29日 6時) (レス) @page50 id: 9a6c96b2f0 (このIDを非表示/違反報告)
Kk - この小説すべて読みました。とてもおもしろいです。よければ現代のほうも書いてください。まだまだ暑い日が続いてるので体調に気をつけて元気に過ごしてください (9月11日 15時) (レス) @page50 id: 51f0cf609d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雫 | 作成日時:2023年7月27日 0時