春雷に散る花【不死川実弥】 (ページ42)

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____それからの日々は、地獄でしかなかった。

あの男に殺された私の両親は、不運な事故として片付けられ

『ねぇ、聞いた？この前、ご両親を火事で亡くしたあそこの娘さん…資産家のご子息に婚約者として、引き取られたんですってね。』

『優しい人ねぇ…そんな人と結婚出来るだなんて、きっとその娘さんも幸せね。』

……あの男は、非常に外面がよく

両親を亡くし、行き場のない私を引き取った…優しい青年として、周囲から持て囃されていた。

それから、あの男は…私を人の手が届かないような、薄暗い奥の部屋へと閉じ込め

『美琴、おはよう。今日も君は美しいね、…食事を持ってきたから一緒に食べようか。』

そんな彼から鳴り響く音は、不気味で…酷く歪んだもので

その音を聞く度に、吐き気を催す程の嫌悪感に苛まれた。

また…当時十四歳だった私は、結婚出来る年齢ではなかった事から

あの男は、私が十五の歳を迎えたと同時に…契りを交わし、正式な妻として迎えると話していた。

それまでは私に指一本触れないと、あの男は言い切り

大事に…大事に、独占欲という強い鎖で私を縛った。

初めのうちは何とかして、そこから逃げ出そうとしたものの

徹底した警備を掻い潜り、広い屋敷から出口を探すだなんて事は不可能に近く

そこで働く女中や警備の下男は、彼の異常性に薄々勘づいていながらも、

自身の身を案じてか、囚われた私に手を差し伸べる事はなく…ただ見て見ぬふりをするだけだった。

あの男の親族からは…彼と似たような音が鳴り響いていて、

自身の欲を満たす為であれば、人の命を何とも思わない…そんな残虐的で狂った音がした。

そんな屋敷に閉じ込められた私は…次第に無力感を覚え

逃げ出す気力もなく、薄暗い部屋の中であの男と契りを交わす日を、ただ待つだけだった。

そんな中…ある月夜の晩、私のもとへ一人の女中が訪ねてきた。

あの男の代わりに食事を渡すと同時に、

『一緒にここから逃げよう』と書かれたメモを隠すようにして手渡し、彼女は優しく微笑んだ。

そんな彼女の手を取り、屋敷を抜け出す事は出来たものの

彼女は人目のつかない場所へと辿り着いた途端、私の首を絞め出し、

『あなたが…あの方と…結婚するだなんて許せない…』

彼女からもまた…強い嫉妬と独占欲にまみれた、

歪んだ愛の音が、しきりに鳴り響いていた。