春雷に散る花【不死川実弥】 (ページ39)

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人に根付く『音』はそう簡単に、変えられない。

変えるためには…自分自身としっかり向き合い、

しがらみを断ち切らなければいけない。

以前、実弥と話をした時に…似たような事を確か言った。

今思えば、どの口が言っているんだと、自分で自分を叱責したくなる。

それに…人の音を『荒んでいる』と言っておきながら、

根深く拗らせ、酷く荒んでしまった音が此処にはある。

あんなに偉そうな事を言って置いて、

自分から鳴り響くその音とは、決して向き合おうとはせず

長きに渡って目を背け、耳を塞ぎ続けてきた。

仮に向き合ったところで…あの日、根付いてしまった音が変わるとは、到底思えなくて

所詮、人殺しからは『人殺し』の音しかしない。

人の『音』は…そう簡単に、変わりはしない______

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物心ついた時から、私は人の音が聞こえていた。

当時は、好奇心旺盛な年頃だった事もあり

私は様々な人の音を聴くのが好きだった。

その中でも…明るく朗らかな両親から鳴り響く

青空のように澄み切った、あの音は格別で

あの音を聴くと…自然と心が温かくなった。

決して裕福と言えるような家庭ではなかったものの

温かい両親と『音』に囲まれる生活は、幸せだった。

けれど、そんな幸せは長くは続かず

無垢であった筈の私の音は、次第に荒み

私の『音』は人が出していいような、それでは無くなってしまった。

____あれは、今から十年程前

当時…十四歳だった私は、両親の負担を少しでも減らしたいと思い、とある茶屋で働いていた。

そこで働く人や常連のお客さんは、皆穏やかで優しい人ばかりで

『美琴ちゃん、お疲れ様。今日の分、少し足しておいたから…何か、好きな物でも買うといい。いつもありがとね。』

『まだ若いのに…毎日働いて偉いねぇ。美琴ちゃん、団子二つ、よろしく頼むよ。』

『美琴、顔色悪いけど…大丈夫…？少し裏で休んだ方がいいよ、私…代わりに注文取ってくるね！』

私はその人達から鳴り響く、温かい音も好きだった。

今思えば、あの頃は随分と人に恵まれていた。

だから…当時の私は知らなかった。

人から鳴り響く『音』は、必ずしも良いものであるとは限らず

腹の底に黒い感情を抱え、惨い音を出す人間が存在するという事を。