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私の名前は207番。両親はいないし、兄弟もいない。
物心ついた時から、この空間でひたすらに特殊な能力を限界まで使い果たす毎日を送っている。



私には他の人にはない力がある。
その力が何であるのかはわからないけれど。

自分のことなのに“わからない”なんておかしな話だと思う。
でも私が理解できているのは自分が他の人とは違う、ということ。そしてこの生活も、“普通ではない”ということ。


私が“兄さん”と慕うその人も、血の繋がりなんてないし彼の素性は勿論知らない。素性どころか、私は彼のことを何一つ知らない。何故私を207番、という名前ではない“A”なんて変な呼び方をするのか。何故いつも試験が終わった後迎えに来てくれるのか。

…けれど私に向けるその優しい表情、私の手を引く温もりに嘘がないから。

たとえ彼が私に酷い事をしても絶望を与えたとしても、きっと私は許してしまうだろう。…そのくらい、この無機質で感情を向けられることのない生活の中で彼の存在は私にとっての全てで救いだ。



『…とは云っても、せめて自分の力のことくらいは知りたい。他のみんなは自分の能力、把握してるのに』

訓練と試験以外で力を使うことは禁止されている。たまに無意識下で力を使ってしまう子もいるけれど、大抵その時は別部屋に連れて行かれて暫く“特訓”させられてから戻ってくる。
私はまだ経験はないけれど、別部屋から戻ってくる子達の表情は元気がなくて何かに怯えているようで、それがとてもつらいことだということは察しがついていた。
だからみんな、力が発動してしまわないよう細心の注意を払って神経を尖らせていた。




私はまだ、幸せなほうだ。
咎められることもなければ、情を向けてくれる人もいる。ご飯は温かいし、休むところもちゃんとある。



けれど───





『何だか、つまらないな』



極たまに、この生活以外の暮らしがしてみたいと思ってしまう。
この無機質で何もない建物から出たら、何が広がっているのか。
どんな世界が待っているのだろう。
ここから逃げ出したいとは思わない。けれど外の世界も見てみたい、只それだけ。


『……少しくらい、良い…よね』





その日、私は訓練室に向かう途中で初めて兄さんの手を振り解きこの“普通でない”施設から抜け出した。




そして、それが本当の地獄の日々の始まりだった。

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暁月臨(プロフ) - きなこもちさん» きなこもちさんのペースで頑張って下さい!! 気長に待ってます!!(*≧∀≦*) (6月21日 21時) (レス) id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 暁月臨さん» 暁月臨さん嬉しいお言葉ありがとうございます、更新止まり気味ですがそう言ってもらえるととても励みになります!頑張りますm(_ _)m (6月21日 18時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
暁月臨(プロフ) - この作品大好きです!更新よろしくお願いします!!頑張って下さい!!! (6月18日 23時) (レス) @page20 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
ミミ(プロフ) - きなこもちさん» 了解しました! (2021年11月11日 12時) (レス) id: 3c71f1d526 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - ミミさん» 私の端末が最近重くてボード開かないので、確認出来次第お返事します、すみませんm(_ _)m (2021年11月11日 0時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きなこもち | 作成日時:2021年9月23日 20時

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