episode7 ページ9
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それにしても、なかなかに初歩的なミスだ。
子供を庇って自分が怪我を負うなど。
子供を気にせず鬼の頸を斬っていたら、こんなことにはなっていなかっただろう。あの距離ならば鬼が子供を傷つけるより私が鬼の頸を斬る方が早かったはず。
頭ではわかっていたけれど、身体が勝手に動いてしまった。
あの、怯えながらもお互いを守るように抱きつき合っていた姉弟を見たら“奪わせてはいけない”と思ってしまった。
その判断の誤りで、今自分が危機的状況に陥っているわけだが。
段々と雨脚も強くなってきて、いよいよ本格的にまずいのではないかと思う。
感覚が無くなりすぎて、痛みすら和らいできてしまっている。
…このまま、意識まで失ってしまうのだろうか。
そう思った矢先。
暖かい温もりが、頬に触れた。
「寝るな、起きろ」
それから、聴きなれた心地よい声。
『……ぎ、ゆ…』
紛れもなく、兄弟子である義勇だった。
何故義勇がここに。
疑問を口にしようとしたところで、優しく手で口を塞がれた。喋るな、ということだろうか。
「話は後で聞く。お前の他に生存者はいるか?」
『……崖の上の、山小屋』
「わかった」
義勇は短くそう答えると、私に自らの羽織を被せた。それから背中と膝裏に手を差し入れ、私をひょいと抱き抱えると足場の悪い山道を難なく下っていく。
流石、柱だなぁと思う。人を抱えているとは思えない身のこなし。私も常であれば、このくらいの動きは出来るのだろうか。
…否、今はそれどころではない。
『…待って、義勇。これじゃ羽織が…』
「……」
貴方の大事な形見なのに。
そう続けようとした言葉は義勇の有無を言わせぬ威圧により音になることはなかった。
「…あまり心配させるな」
『ごめんなさい…』
もっと、強くならなければ。
判断を間違わないようにしなければ。
義勇にこんなことで心配させてしまうようでは、いつまで経っても守るどころか追いつくことすらできない。
感覚が麻痺して、痛みは和らいでいたはずなのに。
心が、鬼に怪我を負わされた時よりも崖から落ちた時よりも、猛烈に痛みを感じ出した。
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きなこもち(プロフ) - ひかるさん» 観閲ありがとうございます、とっても嬉しいです! (2022年5月8日 19時) (レス) @page50 id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
ひかる(プロフ) - すごく面白いです! (2022年5月8日 15時) (レス) @page25 id: 97f5eb0e61 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - いいさん» いいさん嬉しいお言葉ありがとうございますm(_ _)m。マイペース更新ですが頑張りますのでこれからも見ていただけたら嬉しいです! (2021年10月19日 15時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)
いい - 一瞬で心鷲掴みにされました!応援してます!頑張ってください! (2021年10月17日 9時) (レス) @page47 id: ac051c4e24 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 凌雲さん» 嬉しいコメントありがとうございます!とても励みになりますm(_ _)m (2021年9月23日 10時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2020年4月5日 17時