episode44 ページ46
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『……本気、ですか。“汚濁”をやると…?』
私の問いに太宰さんは先程まで浮かべていた笑みを引っ込め、真剣な表情で──しかし何処か挑むような、試すような視線を中也さんへと向けて言葉を発する。
「私達二人が“双黒”だなんて呼ばれ出したのは“汚濁”を使って一晩で敵対組織を建物ごと壊滅させた日からだ。……ただし、私の援護が遅れれば中也が死ぬ。選択は任せるよ」
酷い人だと思った。
そんな云い方をされれば、答えなど一つに決まってしまうと云うのに。
「選択は任せるだと?手前がそれを云う時はなァ……
何時だって他に選択肢なんか無ぇんだよ!」
案の定中也さんは太宰さんの案を受け入れてしまう。
わかっている。
選択の余地などないことくらい。
役に立たないやつが口を挟む権利がないことくらい。
一番無力であるのが、自分自身であることくらい。
わかってはいるけれど、それでも。
頭で理解はしていても、ほんの少し納得できなくて。
往生際悪く中也さんのスーツの裾を軽く握った。
「A……」
中也さんは、そんな出来の悪い部下を怒鳴りつけるでもなく、握られた裾を振り払うでもなく、ただ少しだけ困ったように笑う。
中也さんは何時だって強くて優しくて、少し狡い。
「安心しろ。前も云ったろ、俺は柔じゃねぇ。そう簡単に死なねぇよ。…お前が、一番わかってるだろ」
『…はい』
そんなことを云われてしまえば、もう何もできない。
大人しく手を離せば、中也さんは「いい子だ」と云わんばかりに私の頭を優しく撫でた。
「後で覚えとけ、この陰湿男!」
そして、太宰さんに鋭い視線を向けてから相変わらずの小学生並みの悪口を云い放つ。
「頑張れ単純男」
「女の敵!」
「双黒(小)」
「誰が(小)だ!」
敵の方へと足を向けながらも太宰さんとの云い合いをやめない中也さんは、どこまでも何時も通りの中也さんで。矢張り、まだまだその背中は遠いのだと実感した。
「感傷に浸っているところ悪いけど、君にもまだ仕事は残ってるからね」
『…浸ってません。云われなくともわかってますからその気持ち悪い笑み止めてください』
中也さんの背中から視線を外し、隣の太宰さんを見遣れば彼はため息混じりに「私にも少しくらい可愛げのある態度で接してくれても良いのだよ」などと訳の分からぬことを云ってくる。
背にヒシヒシと感じる、悍ましいほどの巨大な気配。
私はただ、心の中で無事を祈ることしか出来ない。
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きなこもち(プロフ) - わたあめさん» ブックマンJr.放置していてすみません。最近自分でも迷走しててどこに突っ走っているのかわからなくなり放置状態にしてました。真逆更新待って下さる方がいるとは思わず・・・。でも、とても嬉しいお言葉です!頑張って今月中に更新します!! (2017年8月17日 7時) (レス) id: d6a64bf75c (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - ごめんなさい!生意気言って,,, (2017年8月16日 21時) (レス) id: 8f5f7e0649 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - ブックマンJrの少女も更新して欲しいです!! (2017年8月16日 21時) (レス) id: 8f5f7e0649 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 赤雲蒼雲さん» 赤雲さん、ありがとうございます!とっても励みになりました!!更新とってもノロノロですが、これからも面白いと思って頂けるよう頑張ります! (2017年4月22日 19時) (レス) id: d6a64bf75c (このIDを非表示/違反報告)
赤雲蒼雲 - 面白かったです!更新頑張ってください! (2017年4月17日 11時) (レス) id: 08e4520087 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2017年1月2日 21時