69.行って ページ32
Side:迅
Aが倒れてから5日。あいつはまだ目を覚まさない。主治医の樋口さんからは毎日連絡をもらってる。玉狛の皆も交代でお見舞いに行っているのに、おれは未だに会いに行ってない。いや、行く勇気がないんだ。
Aがあんなになるまで戦ったのは、おれが敵を少しでも長く足止めしろって言ったからだ。それが"最善"だったから。
でも、あいつにとっては最善じゃなかった。それを分かってて言った。その結果がこれだ。
でも、Aはおれのせいだなんて絶対に言わないし、思わない。それは断言できる。目が覚めたら「分かってます」とでも言って綺麗に微笑むのだろう。そうと分かっていても、どうしても会いに行けない。あー、何やってんだろ、おれ。
でも、今日はどうしても本部に行かなきゃならない。
本部への道を憂鬱な気分で進む。本部に着いたらいつもの"実力派エリートの迅さん"にならなきゃいけない。おれはボーダーの要だから。皆を不安にさせちゃいけない。いつもの飄々とした態度で、自分の感情は覆い隠さなきゃいけないんだ。
…はあ。人に会いたくないって思う時に限って色んな人に会うんだなあこれが。すれ違った皆にはにこやかに手を振る。おれ、ちゃんと笑えてるかな。
城戸さんからの呼び出しは、主に今回の侵攻に関する事だ。わざわざ呼び出して報告する程の事じゃない。恐らくおれを気遣っての事だろう。そして、
?「……おい、迅」
不意に呼び止められて少し驚く。振り返ると、……あっ、これはやばい。
迅「…風間さんに諏訪さん。この実力派エリートをお呼びで?」
諏「レイジから聞いたぞ。お前、皐月の見舞い一度も行ってないんだってな」
風「あいつの事、お前が気に病む必要はないだろう」
迅「…いや、おれの指示でAはギリギリまで戦って、その結果がこれだ。だからおれのせいなんだ」
諏訪さんは頭をガシガシかくと、大きくため息をついた。
諏「…皐月がお前のせいだって言うとでも思ってんのか?」
迅「Aはそんな事言わないよ」
風「だろうな」
迅「でもおれはAに…」
諏「だぁーっ、うだうだうるせー奴だな!おら、とっとと行くぞ!」
おれの腕を引いて歩き出す二人。行き先はもう視えている。
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作者名:しとろん3号 | 作成日時:2019年2月6日 18時