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「一ヶ月は仕事させませんからね。これは決定事項です、事務所にも通ってますから」
『…ほんと仕事早いわね、佐伯』
日本へ帰ってきた次の日、私は佐伯と共に新事務所へ訪れていた。
地元である大阪にまた戻ってきてしまった。嫌いだとか言ったけど、何だか落ち着く。
「ちょっと話してきますからここで待っててください」
『了解ー』
目立たないように入口わきの壁にもたれて佐伯を待つ。
というか入って初っ端休暇くれるとか、ここの社長中々凄いな。
それにしてもさっきから視線が痛いんだけど。あまり目立つのは好きじゃないのに。
ほら、背後に気配が。
「どないしたん?ここあんまり入ったらあかんねんで」
すんなり耳に馴染む高めの声に反射的に振り向く。
『…人を待ってるのでお構いな__』
ばちりと視線が交わる。
目に入る眩しい浅葱色の髪と糸目、すらりとした体躯。
そ、んな、まさか。
思わず身を引く。でも後ろは壁で。
「…A、」
『……簓、』
あの日から一度も会っても話してもいない、最も会いたくなかった元カレが、そこにいた。
_____
佐伯、佐伯!助けて!
『っ…!』
慌てて走り出すが、急な運動に耐えられる体じゃなくて、ぐらりと揺れる視界。
頭を抑えてそのままぺたりと座り込むところを誰かに支えられる。
「…っ、A!大丈夫か、」
まさか簓に支えられてる…?
力が入らなくて寄り掛かれば、鼻をかすめる奴の匂い。
嘘、頭痛いのがどんどん和らいでいく。落ち着く、私の好きだった香り。
『や、やだ、離して、』
胸を押して、奴から逃れようとする。
怖い、今更どうやって簓と接したらいいの。
「分かった、分かったから暴れんな。もっと酷なるやろ」
とんとんと背中を優しく叩いてくれる。
そんな優しさ見せないで。
こんな弱ってる時に、そういうのやめて。
ぼやと視界が大きく滲み出して、遂に溢れる。
こんな弱いところ見られたくなくて、手のひらで顔を覆う。
「…ほんま、心配かけさすなや…」
後頭部を大きな手で包まれて、そのまま優しく簓の肩口に抱え込まれる。
どきんと疼く心臓と、二年ぶりに動いた心に混乱している。そしてここ最近全く感じなかった眠気に襲われて、私はそっと目を閉じた。
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木 - 続きが気になります…。 (2022年1月30日 17時) (レス) @page4 id: bb5d6f7102 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蘇澳 | 作成日時:2021年7月16日 21時