私の仕事は声優業【下野 紘】

番外編 ページ29

これは紘さんと付き合って間もない頃の話

「明日は新しい仕事2件の後、雑誌撮影とインタビュー。その後はラジオと歌番組

色んな方が期待してるから頑張ろうね」

「はーい(ﾆｺｯ」

「お偉いさん来るから、失敗しないでよ〜？」

「大丈夫だよ！」

「那月さん！次のライブ期待してますね！」

「スタッフ人も気合い入ってますから」

その言葉がプレッシャーをかけてるって分からない？
嗚呼…だめだ。

暗い気持ちが身体を蝕み、奥深くに沈めていく

事務所を出ると外は土砂降りで、雷も鳴っていた

私の心の中を表しているようで
酷く目眩がする

「(傘ないや)」

雨の中をさ迷うように歩き、濡れた目元は涙なのか雨なのか分からない

煙草を出して火をつける

雨の中でも吸えるんだ。なんて、呑気なことを考えていると

purururu と着信が聞こえた

「…はい」

『え！ワンコールで出た…』

「どうしたんですか？」

『いやね、さっき昼寝してたら那月が夢に出てきたのw』

「それで掛けてきたんですか」

『内容が面白いんだって！ww』

電話越しに聞こえる彼の甲高い笑い声
今はそれすら頭に響く

でも、不思議と荒ぶっていた心は落ち着いた

『でさ〜、「下野さん…」ん？』

「…会いたい」

『…


今どこ？迎え行くから、暖かい所で待ってな』

私は近くのカフェを目印に、そこで待つと伝えた

ずぶ濡れのままでは入りずらい為、屋根のある下で壁に寄りかかる

20分としない内に、下野さんが傘をさして走ってくる姿が見えた

紘「中で待たせてもらえば良かったのに。
こんなに濡れて…」

自分の羽織っていたパーカーを肩に掛けてくれた

「ちょ、濡れますよっ」

紘「風邪ひかれる方が困る。
俺ん家の方が近いから、そっちでいい？」

「…はい」

ーーーーーー

紘「風呂湧かしたから、そのまま行って
着替えは…俺の適当に持ってくるよ」

脱衣場で濡れた服を脱いでいると、チラリと鏡に目がいった

涙と雨のせいでマスカラは落ち、メイクも髪もぐちゃぐちゃ

「(最悪すぎ…)」



湯船にそっと浸かると、冷えた身体を芯から温めていく

「(何から説明すればいいかな…)」

ブクブクと那月の顔は鼻までお湯に隠れ、説明しなければいけない内容を整理する



「…下野さんの匂い…」

用意されていたトレーナーを着て、そう呟いた


「お風呂、ありがとうございました…それに着替えまで…」

紘「ん、ここおいで」

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