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それからさらに近場の店を見て回り、最後に来たのは江戸の町が一望できる丘の上。
俺のサボりスポットの一つで、ここに置かれたベンチは昼寝すんのに最適の場所だ。
最も今日は景色の方が目的なわけだけど。
ベンチに二人並んで座って、夕暮れに染まる江戸の町を眺める。
「きれー……」
「此処、俺のとっておきの場所なんでィ。気に入ったか?」
「気に入らないわけないよ、こんな綺麗なとこ初めて見たもん。連れて来てくれてありがとね、総悟!」
Aは満面の笑みを浮かべながらそう言った。
夕陽に照らされてオレンジ色に染まるAの笑顔は、いつものそれよりずっと綺麗に見えて。
俺の心臓も、ドクドクといつも以上にでけェ鼓動を打ち鳴らし始めた。
"お前の方が綺麗だ"なんて思っても、そんな台詞を口に出せるわけもなく。
"どー致しまして"なんて素っ気ない言葉を返すことしかできなかった。
その後は何を話すわけでもなく、心地いい沈黙がこの場を支配する。
Aは小さな手提げ鞄からいつものシャボン液とストローを出し、プカプカとシャボン玉を作り始めた。
次々と生み出されるそれは、一つ一つが夕陽を反射してキラキラ輝いてる。
「…おい、それまだあるか」
「うん?あぁ、あるよ。やる?」
「あァ」
俺が指差したのは、Aが手にしてるシャボン玉用のストロー。
俺がそれを要求したのは、これが初めてだった。
「はい、ストローの先を液に付けて優しく吹いてね」
「やり方くらい知ってらァ」
受け取った真新しいストローをAの手の中の小瓶に突っ込み、液を付けて吹いてみる。
だがシャボン玉は思った程膨らまねーうちに"パン"と音を立てて割れちまった。
「あり…」
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作者名:影咲 遥 | 作成日時:2017年12月4日 22時