涙の数だけ ページ15
「本日も晩酌ですか?」
「おぅ。昨日みてーに酔い潰れるような飲み方はしねーから安心しろィ」
「承知しました」
仕事を終えて飯やら風呂やらを一通り済ませた後、俺はAを縁側に連れ出した。
今日は満月ってわけじゃねーが、そこそこ丸に近付いた月が出てて月光もそれなりに降り注いでる。
これならAの充電にも支障はねーだろう。
「酌しろィ」
「承知しました」
今日は飲み過ぎねーように、コップじゃなく猪口に酒を注がせる。
それをちびりと口に含めば、独特の香りと味が口ん中にふわりと広がった。
「ふー…」
「総悟様は本当に酒がお好きなのですね」
「まーな。酒の為ならアスファルトに咲く花のよーになれるぜィ」
「涙の数だけ強くなれるのですね。総悟様が泣くところは、あまり想像できませんが」
この手の言い回しにもサラッと対応してくるAは、来たばっかの頃と比べりゃ格段に人間じみたと思う。
如何にもからくりですって感じの頃じゃ、きっとこの言い回しは理解できなかっただろう。
こーいうのは人間特有のモンだしな。
「そーだねィ…俺が泣くとしたら、土方がくたばった時に嬉し泣きする時くれェか」
「人間は嬉しくても泣くのでしたね。私もいつか、誰かのために泣くことができる日が来るのでしょうか…」
「…さーな」
否定はできなかった。
Aがあの時のままだったら、間違いなく俺はNoと答えてただろう。
だが今のAならばもしかしたら。
「A」
「はい」
「あれ、見せろ」
「あれ、とは…?」
「充電」
俺が庭を指差せば、Aは僅かにきょとんとした後、一度頷いて縁側から降りた。
「承知しました」
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作者名:影咲 遥 | 作成日時:2019年12月2日 12時