序章 ページ1
月明かりが微かに辺りを照らすだけの、暗い夜。
そんな闇の中でも輝きを失わぬ、美しい白銀の毛並みを持つ大きな獣が一匹。
獣は刀を手にした男達の群れの中を縦横無尽に駆け回り、その鋭い牙と爪で赤い華を散らせていく。
飛び交う男達の断末魔。
獣が駆けた跡に、命は残らない。
ただ一人、それを指示した赤眼の男を除いて。
「おー、相変わらず派手にやってやがんなァ。ちゃんと全部片付けろよ、こんなん他の連中に見せられたモンじゃねーからな」
ピチャリ、ピチャリと赤い水溜まりの上を歩きながらやって来るのは、真っ黒の隊服にこれまた赤い華を咲かせた男、真選組一番隊隊長沖田総悟である。
『わかっている、マスター。いつも通り全て喰えばいいのだろう』
獣は声を発しない。
この言葉は、目の前に立つ男の脳内に直接響くような形で伝わっている。
翡翠色の目を持つ狼、翠狼族が持つ特殊能力だ。
「おぅ、さっさと済ませやがれ。主様をあんまり待たせんじゃねーぞ犬っころ」
『犬ではない、狼だと何度言わせるのだ。その呼び名、いい加減やめよ』
「へーへー、煩ェ雌犬でィ」
『だから犬ではない。噛み千切るぞマスター』
「わーったから早くしろィ。他の連中来ちまう」
まだ納得のいかぬ様子ではあるが、獣…狼は辺りに散らばる男共の残滓を片付けていく。
僅かな時間の後、周囲に残ったのは固まりかけた赤い水溜まりのみ。
これなら文句はあるまいと言わんばかりに、狼はフンと鼻を鳴らした。
「終わったんならさっさと退散すんぜ。眠ィ、背中乗せろ」
『…全く、勝手なマスターだ』
狼は自身の毛に付いた赤を最低限自身の舌で舐め取ると、水溜まりの無い場所まで歩いて主が乗りやすいようにそっと身を伏せた。
慣れた手つきで男は狼の毛を掴み、その背中に飛び乗る。
ふわりとした柔らかな体毛は、上質なウールのそれにも匹敵するかのような心地いい手触りで。
男は振り落とされない程度に、軽く己の指を絡ませた。
「着いたら起こしなせェ」
『…承知した。ゆっくり休め、マスター』
自身の背に乗り早々に眠りに就いた主を起こさぬよう極力静かに、だが迅速に狼は闇夜を駆けた。
これは戦場を駆ける一匹の獣と一人の侍の物語である。
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影咲 遥(プロフ) - 夜空 星月さん» 星月様、初めまして!コメントを頂きありがとうございます。多分シャボン玉よりもグダる可能性大ですが、頑張って更新していきますね!応援ありがとうございました。 (2018年1月27日 22時) (レス) id: 6088c20e27 (このIDを非表示/違反報告)
夜空 星月(プロフ) - 【シャボン玉に乗せた恋心】のときからファンです!こちらの作品も応援してます!頑張ってください!! (2018年1月27日 22時) (レス) id: 5d15086cca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:影咲 遥 | 作成日時:2018年1月27日 21時