真っ白で真っ赤な其の手で【文スト】

第六の通り魔事件 ページ3

こんにちは。私の名前は上弦A。『何の変哲もない』女子高生だ。



私には特に悩みも無く、友人にも恵まれ恋愛事だって…、まぁ付き合った事位一回はあった筈だ。

……要するに案外私は恵まれている方だと思う。

此の前の誕生日にはみんな贈物をくれたし。でも叔母さんからは何故かナイフを贈られた。セットで研石も。勿論理由は訊いてはみたけども。
｢ふふふ、なんで渡したか？貴女にその内必要になるからよ。｣
とだけ。叔母さんは『異能力』というものを持っていて、一週間先の未来が視えるんだそう。

まぁそんな事はいいのだ。私はこの平凡で幸せな生活がずっと続くと思っていた。


―――だが此処で私は気づくべきであった。何故平凡な私が一週間後にナイフなんて必要とする事になるのかを……。


今日は校外学習。美術の授業で山の緑をスケッチしていた。いつも通り友達と喋ったりしながら一面緑の世界を自由に描いていた。そう、私はスケッチをしていた筈なのだ。其の、筈。

が、これはなんだ？


目の前が紅い。赤い紅い赤い。辺り一面全部赤。
『それ』と、目が合った。
ねえ動いて。いや。嘘でしょう。ねえやめてよ。目の前にあるのは、

―――無機質な人の塊だった。

何だこれ。知らない、判らない。近くに住んでいた人が通報したのか、警察が数人山に入って来た。

｢(此れは拙い…！)｣


―――そいつ等が見たのはきっと、血の海にたった一人で立っている少女。そんな異様な光景。

そんなの少女、つまり私が犯人だと思うしかないではないか！

一人の警察が私に手を伸ばした。

｢ちょっと君、署まで………｣

警察の手が私に迫る。
嫌だ嫌だ…！知らない…！！
ガシリと手首を掴まれる。今出る限りの最大の力を入れてその手を振り払った。

｢ああああっ!!知らないよ！私は何もしてないんだ！やってない!!判らない！｣

嗚呼神よ、何だこれは！判らない。私のちっぽけな頭じゃあ理解が追いつかない！


―――兎に角、捕まる訳にはいかない…!!

縺れる脚を必至に動かして走った。少し小さな崖があったけど其れも飛び降りた。きっと今まで走った中で最高のタイムが出ただろう。死に物狂いで逃げた先は、大きな崖、いや、深い谷。

流石にそこに飛び込む勇気はなかった。

結局、その後捕らえられて、私は生まれて初めて無線警邏車に乗る事となった。出来れば容疑者として、いや、人生で一度だっても乗りたくなかった。




『大量虐殺事件の容疑者、上弦A、確保。』

ナイフが必要→←資料

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す