彼岸花はいらない【五条悟】

十四＊ ページ15

ぐちゃぐちゃに絡まってしまった感情を抱えながら自室に戻る途中、私は可愛らしいお客様と出会ってしまった。




黒猫「な〜〜ん」




『あら、どうしたの？貴方。迷って此処に来たの？』




手を黒猫の顔の前に出せば、頬を擦り付けてくる。どうやらこの子は人馴れしているらしい。



先程まで抱いていた負の感情を清算しようと眺めていれば、黒猫の右後肢から血が出ていることに気付く。とても痛々しいし、黒猫自体も足を引きずっていた。




『それどうしたの？他の子と喧嘩した？』




でも喧嘩にしては傷口の形状が異なる様な…この傷はまるで罠に引っ掛かった時の…



そこまで考えて先日父とした会話を思い出した。




(私、黒猫を飼いたいです、父上。黒猫を飼えば私の病だって治るかもしれないですし)




父(黒猫を飼っても病は治らんよ。あんなのは迷信だ。黒猫なんて見た目からして不吉だろう)




(そう…ですか…)




父と同じ様に考える人は少ないが、いないわけではない。もしかしたらそんな考えの人が作った罠に掛かってしまったのかもしれない。



取り敢えず止血をしなければと黒猫を抱き上げる。膝の上に乗せれば、今から処置を受けるなんて思ってもいないらしい黒猫は機嫌が良さそうに再び“にゃ〜ん”と鳴いた。



大人しく丸まってくれているうちに持っていた手拭いを黒猫の患部に巻いて縛る。外れない様に強く締めれば黒猫は少し驚いた様子だったが、大人しくしてくれていた。




『よし、これで大丈夫。人が好きなのかもしれないけど、あまり街の方に行っては駄目だよ』




猫の怪我を見つけるまでは人馴れしていることはいいことだと思っていたけど、そうでもないらしい。



この子が人に馴れていなければきっとこんな怪我はしなかった筈。




黒猫「…な〜ん？」




小首を傾げるようにして私の顔を見てくる黒猫。この子も人間から何度も酷い扱いを受ければ悟さんみたいに誰に対しても心を開かなくなってしまうんだろうか。



どうして悟さんとこの子を重ねて見ているのかは自分でも分からなかったけど、もしそうなってしまったら、それはとても悲しいことだと思った。

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