【文スト短編】悪夢の匣【ヤンデレ】 (ページ25)

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｢素直｣芥川龍之介※ ページ25

世間は｢クリスマス｣だとかいうのでひどく盛り上がっているが、なんとも迷惑な話である。
大して良くも知らないであろう異国の文化のくせに、みんな自分達が主役であるかのように騒ぎ立てる。街は必要以上に明かりを灯して、老若男女、様々な人が入り交じる。
全く。馬鹿ばっかりだ。

この女も然り。

｢龍之介！メリークリスマス！なんでそんなしかめっ面をするのよ！今日は聖なる一日なんだよ！｣

わーわー子供のように叫びながら勝手に僕の部屋に入ってきたA。

｢うるさい。仕事の最中だ。見てわからぬか。｣
｢えー！クリスマスだってのにこんな遅くまで…大丈夫だよ！明日にまわそうよ！今日はお祝いしようよ～｣
｢なぜ祝わなければならぬ。何を祝うのだ。｣
｢えぇ？んー、宗教的なことはよく知らないよ。でも楽しいじゃない。｣
｢ほらこれだ。よくわからぬ、そんな意味の無い事でいちいちお祭り気分になっていては困る。｣
｢龍之介、それ、ハロウィンの時も同じ事言ってたね。｣

はぁぁ～全く、行事の楽しみを知らない人なんだから、とAは大きなため息をついた。

当たり前だ。そんな、行事ごとに浮かれているようでは。とにかく無駄な事はしたくない。

｢でもね、私ね、龍之介にプレゼント持ってきたのよ。｣

｢…僕にか。｣

｢そう！はい！開けてみて！｣

と言い小さく可愛らしい箱を手渡される。開けるとシンプルながらに精巧な指輪が入っていた。

｢龍之介はあまりアクセサリーつけないかなぁと思ったんだけど、これ凄く綺麗だから、君がつけた所見てみたいなって。どう？｣

｢ほう、確かに綺麗だ。｣

此奴のことだから、僕以外にも沢山の人に贈り物をあげたのだろう。わざわざそんな真似を…と思っていたが、Aはこんな事を言った。

｢ほんと？やった！プレゼントなんて、龍之介だけだからね！特別よ！｣

｢…は、僕だけ？｣

｢うん。どうせ君のことだからサンタさんなんて信じてないでしょう？そしたらプレゼント貰えないから可愛そう～って思って、私がサンタさんになってあげたの！感謝してよね！｣

Aは、照れ隠しからか、そんな訳の分からぬ事を早口で言った。

全く。やっぱり馬鹿だな。
ふと、自分の頬が緩んでいるのに気が付いた。こんな自然に笑みが零れたのなんて何年ぶりか。

｢ありがとう、A。明日からつけよう。｣

その時のAがとても嬉しそうで、柄にもなく、あぁ今日は幸せだなと思ってしまった。