【文スト短編】悪夢の匣【ヤンデレ】 (ページ3)

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｢覚えてて｣中島敦ページ3

今日もいつもと同じ一日だった。
学校は苦手だ。

家族は、気を使わないから好きだ。友達ーーーと呼んでいいのかわからないが、とにかく学校の人たちには無駄に神経を使ってしまう。家に帰れば、家族に会える。それだけが今の私を憂鬱から救っていた。

いつも通りの日常。何も変わらない。普遍的だ。
そのはずだったのに。

ガチャリ。

｢？｣

あれ、ドアが開くなんて珍しい。私は部活で帰りが遅いため、大抵は鍵が掛かっている。

中に入る。刹那…
なんだ、この匂い！鉄っぽく噎せ返るような…血か？お母さんお父さん！！大変！

靴を脱ぐのも忘れて玄関からリビングへ走る。

あぁ、見たくない。一気にいつもの日常はなくなった。両親が血だらけで倒れていた。見たくない。信じたくない。

そして、血の海に佇む1人の、白髪の青年。
お前が、お前がやったのか。

青年は未だ刃物を持ったまま、ゆっくりと振り向き、

目が合ってしまった。私もやられるのだと思った。だが、青年は満面の笑みを浮かべ、とても早口でだいたいこんな事を捲し立てた。

「あぁ、おかえりAちゃん！待ってたんだよ。いつもこの時間に帰ってくることは知っていたからね。怯えた顔してる。大丈夫！Aちゃんに酷いことはしないよ！僕はね、武装探偵社って所で務めている中島敦。君にとっては初めまして、かな？僕はもう毎日君を見ているけれど。あぁ、でもこんな近くで正面からじぃーっと見たのは初めてだ。綺麗だなぁ、やっぱり凄く素敵な人。うふふ」

普通の人は両親を殺した人がいきなりこんなことを言い出せば恐怖で狂うだろう。

しかし、その時の私は至極冷静だった。なぜだかは私でもわからない。

「敦…さん。私の事が…好き？なのですか？」

「もちろん、もちろん、大好き。愛してる！！」

首をブンブン縦に振って、目はトロンとしている。

「……じゃあ、なぜ両親を殺したの？」

この質問は、するべきではなかった。

「だって、僕と君には悲しい程、接点がないし、僕も何度か君に話しかけたけれど、君は全然覚えていないでしょう？君は僕を気に止めてもくれない。だからね、君の大切な人達を消したんだ。そうしたら、君は絶対に僕のことを忘れないでしょう？もし僕達が離れ離れになっても、君の記憶から僕は絶対に消えない。うふふ、素敵なことでしょう！」

そして、優しく私を抱きしめた。

…きっと私は地獄に堕ちるわ。だってこんな狂った人を、好きになりかけてる。