【文スト短編】悪夢の匣【ヤンデレ】 (ページ15)

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｢だって、｣太宰治ページ15

なんとなく、今日はいつもと違う道で帰ろうと思い立った。しばらくして大きな橋に辿り着く。大きいは大きいが、立派な訳では無い。川の水量がもう少し増えればこんな橋などすぐに決壊してしまうだろう。だからいつもは通らない。そんな橋の、丁度真ん中あたり、へりから身を乗り出す長身の男。

｢うーん、高さはそんなにないけれど、水に流されて死ねそうだな。こんな寂しい場所なら死体も見つけてもらえないな。｣

と色々呟いている。オマケに身体中包帯だらけ。あぁなんて悲しい男だ。私は同情してしまった。

｢あの、｣
｢ハイ？おや、可愛いお嬢さんじゃないか。何か？｣
｢今あなたがしようとしていた事、やめて下さい。｣
｢なぜ？｣
｢とても悲しい事だから。｣
｢誰が悲しいの？｣
｢……私が悲しいです。｣
｢君が？今初めて会ったのに？ふふふ、面白いね君。あーあ、また死ぬ機会を逃してしまったよ。君が気に入ったから今日はもういいや。ねぇ、お名前は？｣
｢宮部Aです。｣
｢Aちゃんか、君は優しいね。私は太宰治だ。また会えたら、その時はよろしく。｣

そう言ってくるりと身を翻し私と反対方向へ歩いていった。

あの一件から街の至る所で太宰さんに会うようになった。カフェで斜め前の席に居たり、図書館で同じ本棚で本を探していたり。初めの方こそ偶然だと思っていたが、5回6回と会ううちに怪しくなってくる。

｢こんなに会うなんて、これは偶然なのかなぁ？ねぇAちゃんはどう思う？｣
｢さぁ、厄介な偶然ですね。｣
｢おや、厄介かい？私は嬉しいけどね！ねぇねぇ、やはり、これは運命じゃないかな？あの橋で会った時から私たちの運命は決まっていたんじゃないかな？｣

……。

｢太宰さん、私気付いています。いつも私の事を追ってるって。これはストーカーですよ。目を瞑っていましたけど、いい加減止めて下さい。怖いです。｣

すると太宰さんは一瞬、目を見開いてポカンと阿呆みたいな表情をして、

それはそれは愉快そうにケラケラ笑い出した。

｢うふふ、ふふふふふ。やだなぁ怖いぃ？ストーカーだってぇ？困っちゃうなぁAちゃん。誘ったのは君じゃないか。何の関係もない赤の他人の私の生死が気になるんだろう？私が死んだら悲しむのだろう？君が私に優しくしたんだ。君が私の事を好きなんだ。そう、そう。私も君の事が好きだよ。両想いだね。運命だよ。これは、運命だ。｣

へぇ、厄介な運命だこと。