９★オレだって ページ9
「ま…くん」
「ん。おはよ」
「おはようございます」
顔色…はだいぶいい感じ。
よかったってとりあえずホッとしてたら、
「…まぁくん、あの」
俺を見上げた目を見てすぐに分かった。
昨日の話をするつもりなんだって。
「Aさん」
別に怒ってなんかないけど、
自然に声が強くなってたみたい。
俺に遮られた瞬間、
Aさんの手がピクリと動いた。
「あ…っと、ごめん」
「いえ…」
「けどほら、まだ朝早いしさ。
もうちょっと眠った方がいいかなって…」
「…はい」
「ね？ はいじゃあ目つむって」
俺の言う通りにAさんが目を閉じて、
ふぅ…って息をついた。
右手でゆっくりAさんの頭を撫でてたら、
「なぁに？」
目を閉じたままAさんが小さく笑った。
「いえ…まぁくんの手、あったかいなぁって…」
「…そう？ 」
俺があったかいんじゃない。
Aさんの体が冷たいんだよ。
「大丈夫、今日はずっと一緒にいられるから」
「…」
「安心して眠っていいよ。ね？」
小さく頷いたと思ったらあっという間に寝息が聞こえてきた。
こんなすぐ寝ちゃうなんて、すごく消耗してるんだ。
それはやっぱり…１人の体じゃないから？
(俺だって…)
Aさんのお腹に目をやってみる。
(…俺だって、会いたいよ？)
この子達に会いたいなって。
無事に生まれてきてほしいなって、
こうしてたらやっぱり俺だってそう思うよ。
けどそれじゃ…
――コン、コン
控えめなノックに振り向いたら、
宮本先生の顔がそっと覗いた。
黙って頭を下げたら先生はそのままスルリと病室に入ってきて、
俺の隣に立ってAさんを見下ろした。
すごく小さな声が上から降ってくる。
「面会にいらしたと受付から連絡があったもので…」
「あ…はい」
「昨日の件ですが、奥様には…？」
「…話しました。でも…」
『帰って！！』
取り乱したAさんの声を思い出したら胸が苦しくなって、
その先を続けられなくて俯いた。
「…少し、外でお話しましょうか」
俺の様子をじっと見てた先生は、
低い声でそう言うとドアに向かった。
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作者名：薫子
| 作成日時：2017年12月15日 17時
