２５★もしもの時 ページ25
仕事は仕事でどんどん大詰めになってった。
ハワイのコンサートの準備が連日続いて、
病院に行く時間もうまく取れなくなって。
(はー…今日もこんな時間かぁ…)
Aさんにメールするのが精いっぱいで、
それだってあんまり夜遅くは困るだろうなとか、
あれこれ考えてるうちに気がついたら朝になっちゃうし。
「相葉くん！ちょっといい？」
「はい！今行きます！」
大声で返事してスマホをしまった。
もうそろそろAさんの状態も落ち着いてくるかな、
なんて思いながら。
「相葉さん！」
そんなのが甘い幻想だって思い知ったのが、
この日の午後だった。
スタンバイしてたセットの裏で、
駆け寄ってきたマネさんを見た瞬間嫌な予感がした。
(え…なに？)
だって顔が引きつってる。
これまで俺にさんざん付き合って、
大抵のことには動じないこの人が。
「相葉さん、奥さんが…！」
耳打ちされた低い声に、
覚悟はしてたけど衝撃があった。
やっぱりAさんのことなんだ。
「パニックの発作を起こしたらしくて」
「は？ パニック？」
「はい。貧血からくる息苦しさがきっかけみたいなんですけど、」
息苦しさ…
それって、もしかして。
「昔の…記憶が？」
「はい」
あの事件のトラウマはもう乗り越えたと思ってた。
なのにまさかこんなところで再発するなんて…！
「それで正直、母子共に危険な状態だと…」
うそ…
背筋がぞっとして、
目の前が暗くなった。
「どうします？」
「どうって…」
分かってる。
今すぐ病院に向かって、
Aさんに付き添うべきだって。
でも…
「…ダメだよ仕事だもん、今は行けない」
「けど事情が事情ですし、
この収録は私からプロデューサーに話して、」
「ちょっと、マネージャーがそれ言っちゃおしまいでしょ」
こんな時なのに思わず笑っちゃった俺を見て、
マネさんの眉がつり上がる。
「でも相葉さん、」
「ね、先生に連絡しといてくれる？
前話した通りにお願いしますって俺が言ってたって」
もしもの時は、何があっても彼女を助けて下さい。
俺はあの時そう頼んだ。
もしかしたら今がその「もしもの時」なのかもしれない。
「絶対お願いしますって…言ってたって」
ごめんAさん。
俺はすぐには行けないよ。
けど…Aさんの無事を、
(ごめんね…)
Aさんの無事『だけ』を、祈ってる。
本当に―――
心から。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 268人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：薫子
| 作成日時：2017年12月15日 17時
