８５◇ヒカリの先 ページ25
ムハンマドに連れられて中心街に来た。
「すごい人ね」
「ああ」
はぐれないよう気をつけろと言われたけど、
私に合わせて歩幅を落としてくれているのが分かる。
「そうだな、まずは…」
何から揃えようかムハンマドが考えている横で、
ぎっしりと品物が並んだ路地がふと目に入った。
「ねぇ、あそこは何を売っているの？」
「土産だな。観光客向けの」
「そう。見てきても？」
「分かった」
ムハンマドは他のものを見るために別の店に行くと言い、
ほんの少しだけ別行動をとることにした。
「俺はあそこの布地屋にいる。
なにか買いたいものがあったら後で言うといい」
「分かったわ」
市場はガヤガヤとにぎやかで、
色とりどりの雑貨が所狭しと店先に並んでいる。
１歩進むごとに買ってけと声がかかったけど、
「なんだ、あんたこっちの人か」
私がアラビア語で断ると皆あっさり諦めていた。
ゆっくり歩きながら左右の店を眺めていると、
(…ん？)
雑多な品物の中で、
ふと目に留まるものがあった。
「あら…スノードーム？」
手にしてそう呟いた瞬間、
雷に打たれたような衝撃が全身に走った。
(私、前にも…)
なにかが一気に頭の中を駆け巡りだす。
雪の降らないこの国でシュールな探し物だと思いながらも、
『あ、あった！』
前にも確かに、
こうしてスノードームを手にしたことがあった。
『ほらやっぱり。
ここに来ればあると思ったのよ』
ちらちらと舞い落ちる雪を光にかざし、
嬉しくて笑った。
『きっと喜ぶわね、……が』
喜ぶ…誰が？
私は誰に喜んでもらおうとしていたんだろう。
『きっと喜ぶわね、…が』
割れるように痛む頭を押さえながら目を閉じ、
散り散りに消えそうな記憶の光を必死に辿る。
そう、そうだ。
私は確か―――
『きっと喜ぶわね、翔が』
ハッと顔を上げた。
「翔…！」
小さく叫んだその名前を風がさらっていく。
その瞬間―――
「…っ、」
あの日訪ねて来た彼が誰だったのか、
そしてどんな思いで帰っていったのかを悟って息が止まった。
(翔…)
足元が崩れていくような感覚に思わずよろめき、
あやうく取り落とすところだったスノードームを慌てて戻すと、荒く舞う雪があっという間にぼやけた。
「ごめんなさい…」
溢れる涙を拭うこともなく、
私はチラチラ落ちていく偽物の雪を呆然と見つめていた。
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薫子(プロフ) - ゆきままさん» ２に続き３にもコメントいただきありがとうございます(^^) スノードームはずっと活躍させたかったアイテムなのでやっと使えて私も嬉しいです。最終章を先ほどアップしましたのでまたお楽しみいただけたら幸いです！良かったらまたご感想などお寄せ下さいませ(^^) (2020年1月12日 9時) (
レス) id: aa5d845008 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきまま - はじめまして、いつも楽しみにしております。スノードーム！ベストアイテムですね、さすがです。路地裏も最強ですね。次回も楽しみにしております。 (2020年1月12日 4時) (レス) id: 6749c8d29b (このIDを非表示/違反報告)
薫子(プロフ) - さやさん» こんばんは(^^) そうなんです☆翔ちゃんのコレクションを見たのが18話、その後46話で証言が出ていた『買いたいものもあるし』の対象もスノードームでした。やっとこさ伏線回収できてホッとしてます(笑) 続きもよろしくお願いします！ (2020年1月11日 20時) (レス) id: aa5d845008 (このIDを非表示/違反報告)
さや(プロフ) - 薫子様！もうすぐｺｺも佳境ですね。記憶のｷｰﾊﾟｰｿﾝがｽﾉｰﾄﾞｰﾑってのに流石だなぁと感心です!!!!!さて物語流れますね。続きも楽しみです！変なﾀｲﾐﾝｸﾞでｺﾒ入れちゃいました(^^; (2020年1月11日 16時) (レス) id: 4ca326b9cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：薫子
| 作成日時：2019年12月6日 8時
