【刀剣乱舞】四季折々、夢惑い── (ページ4)

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分陰サマータイム『謙信景光』ページ4

うんざりするほどの猛暑と、それを掻き立てる蝉の声に怒りを募らせながらも、本丸の主である審神者は目の前の書類に向かっていた
かれこれ1時間近く続けているのだが、一瞬たりとも集中など出来なかった
むしろ書類が片付かず余計にイラつく始末だ

もう終わりにしようか、そんな考えが浮かんだ時、廊下の向こうから足音が近付いてきた
パタパタと短刀らしき軽い足音に顔を上げれば、部屋の障子が開かれその誰かが入ってくる

「あるじ！かきごおりをもってきたぞ！
いっしょにたべよう！！」

額に汗を浮かべながら謙信景光はかき氷の乗ったおぼんを持っている
茹だるような暑さとキラキラと光るかき氷の美しさが相まって、さらにその魅力を溢れさせていた
その上謙信の笑顔もあって、ついに審神者は書類を投げ出した

まだ残りはそれなりにあったが審神者はお構い無し
きっと後で長谷部らに起こられることだろうが、今の審神者はかき氷しか眼中になかった

「あるじのは"ぶるーはわい"なのだぞ！
ぼくとあつきでつくったんだ、おいしいか？」

「うん！冷たくて美味しいよ」

それを聞いて謙信は花が咲くような笑顔を見せる
その手にはたっぷりの小豆が乗ったかき氷があった
美味しそうに食べる審神者を見ながら、彼もそれに手をつけた

「謙信のには練乳かかってるんだね」

「うん、あつきがくれたのだ！
あ、あるじもほしかったか？」

ハッとした謙信が審神者に聞き返すも審神者は首を振る
いつもの優しい笑みで返す審神者に、謙信は下げていた眉を上げ真似して笑う
審神者はその頭を一撫でして、またかき氷を食べ続けるのだった

「んー！ちょっと涼しくなったねー」

「そうだね。またたべたいのだぞ！」

「ふふ、今度は私も作ろうかな」

「ほんとうか！ならぼくもおてつだいする！」

「じゃ、約束ね」

右手を差し出し、自分より小さなその手と小指を絡ませる
まだまだこの暑さは続くだろう
2人の約束が果たされる日も、すぐ近くにあることだ

おぼんを持って厨へ駆けていく謙信を見送り、審神者はふと上を見上げた
どこまでも澄み渡る青空
先程まで溜め息が溢れたその空も、今はなんだか心地よい

縁側から見える向日葵も、青葉を生やす桜も、たくさんのものが美しく見えてきた
まるで、別の世界に来たような気分だ

「………よし」

1つ拳を握り、審神者は再び書類へと向かっていった

─瞳と同じ色だったな、なんて─