恐怖 ページ9
まるで私の心を読んだように、突拍子もなくそう彼は告げた。
一言も和に関する事など口に出していないというのに。少なくとも、彼の前では一切。
彼と目が合う。あの日の、まるで獲物を捉えたかのような目と同じ目だった。瞳孔が開いている、あの目。
それに気づいた瞬間、蛇に首を絞められるカエルのように私の息は苦しくなる。
暖かい日が差しているにもかかわらず、周りの空気が氷のように冷たかった。
「…どういう、事ですか？」
息が詰まりそうになりながら、私は聞く。
彼は私の質問に満足したのか、途端にいつもの笑顔に戻った。張り詰めた空気が緩和され、私の息苦しさも軽減される。
「すみません、何でもありませんよ。ただ、彼とは昔ながらの友人でして…忠告だけしておこうかと」
何故、友人の忠告などするのだろう。
尋ねたかったが、できなかった。
いつもの笑顔かと思っているそれからも、どことなく威圧を感じてしまうからだ。現に、私の体は鳥肌が立たせている。
「彼、昔から女性関係はかなり遊んでいまして…どんな相手でも女性ならばすぐ口説くような女食いなのですよ」
私はもはや嗚咽のように小さな「はい」という返事をする。
そして、「気をつけます」といつの間にか言っていた。
「…これから私の恋人の家に行くのですよね？是非、楽しんで」
何故その事を知っているのか。恐らく友人の聞いたのだろう、そうに違いない。
彼が去ってからも、変な冷や汗が出ていた。
まだ外は肌寒くコートが手放せない時期だというのに。体調でも崩したのだろうか。
「やっほ、A…！？ちょっと大丈夫！？顔色めっっっちゃ悪いよ！？」
玄関の扉を開けた私に、友人は驚く。それはそうだろう、ついさっき恐怖体験をしてきたのだから。
「そんな無理しなくていいのに…とりあえず休みな」
友人は私にバタバタと急いで駆け寄ると、肩を貸してくれる。そしてそのまま、ソファーへと座らせてくれた。
毛布をかけてくれたり、温かいお茶を持ってきてくれたり、至れり尽くせりな介護を受ける。私はそれに甘える事にした。
「ふぅ…体調良くなるまでそうしておきなよ」
「ま、ママ…」
「毛布剥がそうか？」
体調悪いなら大人しくしててと呟く友人の姿は、やはりお母さんのように見えてくる。
実際、友人は良いお母さんになれるだろう。
友達の私にここまで気配りしてくれるのだ。良いお母さんどころか、最高のお母さんになるはずだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ヤンデレ」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名も無き者(プロフ) - そう言って頂き嬉しいです…！イベント参加させて下さりありがとうございました！ (3月7日 6時) (
レス) id: b52add099d (このIDを非表示/違反報告)
あめ(プロフ) - この度はイベントへの参加ありがとうございました！(連投申し訳ございません) (3月7日 0時) (レス) id: 82abefb882 (このIDを非表示/違反報告)
あめ(プロフ) - コメント失礼します〜！題名的にギャグ系かと思いましたが、想像より遥かに真剣なお話で良い意味で期待を裏切られました…！描写も細かく、もっと有名になるべき作品だと感じました！これからもお時間あるときにでも閲覧させていただきます！ (3月7日 0時) (レス) id: 82abefb882 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名も無き者 | 作成日時：2024年3月6日 17時
