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過去のことを思い出して項垂れていると、スマホから着信が届く。マネージャーからだ。
「真さん?レッスンの終了予定時間だいぶ過ぎてますが……」
「あっ、すみません!今更衣室で……すぐ出ます!」
「ああ、いえ。今回の収録スタジオですから。楽屋でお待ちしてますね。」
時計を見ると収録まであと1時間。シャワーを浴びるくらいの時間はありそうだ。
荷物をまとめるとすぐに出て、フェアビアンカの楽屋に向かう。そこには既に肇がいて、スマホをいじりながら座っていた。
「お疲れ〜」
「お疲れ、ちょっとシャワー浴びてくる」
「ん」
シャワー室に入りさっきまでかいていた汗を洗い流す。そこで思い出したのは大輔に言われた枕の噂のこと。
肇は知ってるのかな……知らないのかな……でも、素直な人だから、知っていたらすぐ聞いてくるとは思うけど。
僕達がちゃんと言葉を交わし始めたのはデビューが決まってからだ。社長室に同時に呼ばれて、「二人でのデビューが決まった」と言われた日から、共にレッスンをして、打ち合わせもして。
肇は最初は結構無愛想だった。僕がよろしくね、と手を差し出しても黙ったまま、手をスっと出しただけだ。
僕もそれからなんだか気まずくて、あまり会話をしなかった。むしろ少し苦手な人だとも思い始めていたんだけど。
デビューの寸前くらいに誕生日だった僕に、わざわざプレゼントを買ってきてくれて。
その時も「ん」とラッピングされたプレゼントを差し出されただけだった。だけど、それで肇が不器用なことも、人見知りなことも、本当は優しいことも知ったんだ。
それからは急激に仲良くなった。肇はよく笑顔を見せてくれるようになったし、話しかけてくれるようにもなったし。くだらないことで笑い合える仲にまでなった。
正直だから、思ったことはすぐに言っちゃうし、ちょっとキツめの顔をしているのに人見知りで不器用だから誤解もされやすいけど、本当はすごく良い人なんだ。たった6年の付き合いでも、すごくよくわかる程に……
僕は肇のことが好きだ。この好きがどういったものかはわからない。だけど、ただ一つ確かなのはこれからも肇と己を高めあいたい。いつしかは国民的アイドルとして、世界中に僕たちの歌を、踊りを、魅力を届けたいと思ってる。
……だから、肇に離れて欲しくない。
だけど社長のコネを捨てられない僕は、今日も社長から貰った甘い匂いの香水を、媚びるように首につけた。
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作者名:Me | 作成日時:2021年9月23日 18時