2.害虫 ページ6
「なあ、真……」
「ん、どうしたの?」
レッスン後に親友から話しかけられた。
僕の相方はこいつじゃなくて肇だけど、肇よりずっと前からの知り合いで、研修生時代の時はよく帰りとかも一緒だった。親友こと、大輔(だいすけ)。
「あのさ、めっちゃ言いにくいんだけど……」
「え?何?なんだよ〜、俺と大ちゃんの仲じゃ〜ん。あっ、ズボンのチャック!?……は、ないしなあ。今ジャージだし。」
一人でうーん、と考えていると、大輔からは思いもよらぬ言葉が飛びかかる。
「真、社長と……その、枕やってるって噂、流れてるよ……」
ぞわ、と全身に悪寒が走る。血の気が引いて、冷や汗が出た。
冗談はよせ、とはぐらかそうとしたけど、大輔の真剣な表情と、他には聞こえないようわざわざ他の皆が帰ったあと、更衣室で小声で話している状況からして、彼からは本気を感じた。
「……な、にそれ…………」
これが精一杯の反応。
大輔はその声を聞くと、大きくため息を吐いて僕の肩に手をポン、と乗せた。
「ごめん、こんな話して。そんな訳ないよな。俺が一番信じてる。だけどこういう噂広げるヤツもいるんだ。くれぐれも気をつけてくれよ。」
「……ほんとに、俺が枕してるって噂流れてんの?」
「…………流れてる。でも、俺が一々否定してくから。」
一緒に悪意と戦っていこう、と手を固く握られる。そこからは強い意志が感じられるようで、どこか安心と共に罪悪感を感じていた。
「ありがとう……ほんとに、事実無根だっつの……………」
「だよな!良かった。そもそも社長既婚だし、そんなことしねえよな〜。よし、じゃあお疲れ。この後もフェアビで収録あんだろ?がんばれ〜」
「うん、ありがと。」
バタン、と更衣室のドアが閉まる。力が抜けたようにへなへなと座り込んでしまった。
そんな噂が流れていたとは……いつからだろう。僕の耳には入ってこなかった。肇はどうなんだろう。
だけど、皆の前で社長がよく声かけるもんだから、いつかはバレるんじゃないかと思ってた。初めはコソコソとしていたのに、最近になって公の場でも誘ってくるようになった。
ごめん、大輔。俺、ほんとに社長とやることやってんだ。だから図星で動揺したの。決して事実無根の噂を広められていたことが、解せなかったわけじゃない。嘘ついてごめん。騙すようなことしてごめん。
そう心の中で謝った。打ち明ける勇気なんて、僕にはなかった。
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作者名:Me | 作成日時:2021年9月23日 18時