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4.葡萄 ページ16

また僕は、嘘を重ねた。

絶対に言おうと思ったのに、自分の汚れを明かそうと思ったのに。また逃げた。また騙した。

ラジオの収録に向かう肇を見送ったあと、頭を抱えて、蹲って、ひたすらに泣いた。叫ぶように嘆いて、身を震わせて。

自分の弱さと無力さを痛感した。
昨日、肇から貰った言葉の一つ一つが、割れたガラスのように僕の心を刺してくる。

君と努力したからフェアビアンカはできたんだ。
だけど、その裏で僕は汚いことをしている。
ずるいことをしている。

「……」

……もう、終わらせようと思った。
スマホを開いて、社長とのチャットに移動する。

『今晩、予定はあいていますか?』

ここで、全てを終わらせたい。
また初めからフェアビアンカとして。
今度は二人の実力で仕事を掴みに行きたいと思ったんだ。

売れなくたって、何も残らなくたって、肇はきっと僕と一緒に歩んでくれる。フェアビアンカを、僕を離さないって言った肇なら……。

『真からとは珍しいな』
『空いてるよ』

送ればすぐ、二つの返事が来る。
10年続けたドロドロとした拘泥を洗い流そうと、腕で目を強く拭い、肇の部屋を後にした。

______

場所はいつものホテル。
しっかりとした服装をして、髪もオールバックにして……ドレスコードを守るのも、今日で最後になるかもしれない。

煌びやかなシャンデリア。上品なウェイターや料理の数々が醸し出す雰囲気は、決して嫌いではないし、づっと憧れではあったけれど。

肇の家でだらだらしながら安いお酒を飲むのが楽しかった。社長といても、緊張して料理の味はしないし。

「真」

先にホテル内のレストランの椅子で待っていると、約束の時間を少し過ぎて社長がやってきた。

「お待たせ、悪かったね。お腹空いたでしょ。」

「いえ、お疲れ様です。」

小さく会釈をすると、社長はふわりと微笑んだ。

「ありがとう。それで……何か話したいことがあって呼んだんだろう?」

「……」

やはりお見通し、か。
心の中を見透かされたように社長は「真から呼ぶなんて何か話がある以外にないでしょ?」と笑いかけた。

「……室内で、できればお話できませんか。人の目が気になるので…………」

「うん、そういうことだろうと思ってたよ。まあ良いじゃない。今はワインでも嗜もう。」

用意されていたワイングラスにシャルドネが注がれた。あえて白いワインを飲まされていることに、相手に僕が後で言うことを全て把握されている気がしてならなかった。

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作者名:Me | 作成日時:2021年9月23日 18時

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