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「ああ……だってあれ、仕事用だし。」
「仕事用?」
「うん。仕事の時しかあれはつけない。……正直、そんなに好きな匂いでもないんだ。」
好きでもないのにつけるのかよ、という野暮な言葉は飲み込んだ。仕事に拘りのある真のことだから、何かしらの理由があるんだろう。だけど……
「俺、今のお前の方が良いな」
「肇もあの香水好きじゃないの?」
「いや、単に今の匂いの方が好きなだけ。」
「えっ?」
れんげで掬ったスープの水面を見つめながら何気なく呟いた。いつも本番前で緊張してる時に嗅ぐ匂いだからか、落ち着かないのかもしれない。
香水をつけていなくてもなんだか真からは匂いがする。落ち着く、どこか穏やかで優しい感じの。
「ああ、おばあちゃん家と似た匂いがするんだわ」
「いや、なにそれ……照れて損した…………」
「え?照れてたの?」
「いや照れるだろうよ!お前、俺に匂い好きって言われたらどう?」
「……ちょっと恥ずかしい。」
「でしょ?」
口を尖らせて全くもう、と言う姿から、昨日の雨の中のメンタルから大分回復したようで少し安心した。
日頃の真に対する妬み嫉みのせいで、こいつを削っていたのは俺だろうと思い今では猛反省。こうして時間を作ることができて良かったとしみじみする。
少し冷めたチャーハンを頬張りながら、これからは定期的にメシでも食いに行こうと思った。
俺がそう思うように、真も俺を信頼しているはずだから。嫉妬すると同時に心から尊敬してる。だから……
「真」
「なに、肇。」
「これからもよろしくな、フェアビアンカとしても、相棒としても。」
「ふふ、言われなくてもわかってるって。僕こそよろしくね、肇。」
お互い手にしていたコップで軽く乾杯をする。酒でも買いに行くか?と声をかけると、随分乗り気に行く行く!と真が言うものだから、ほんとお調子者だと思いつつも、いつもの明るい様子の彼が見れて、やっと心の底から安堵することができた。
二人で家の近くのコンビニに行って、ビールやらつまみやらを適当に買って、家で乾杯する。
最近はあまり二人で出かけることもなくて、酒を交わすのも久々だったと、この時気づいた。談笑しながら冷えた酒をグラスに注いで、ナッツを食べる。
「てかさ〜前のドッキリ企画酷かったよねえ。僕ら泥にドボーンだよお〜」
「アイドルがそういうのしてたら視聴率稼げそうじゃん」
「それはそうだけどお」
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作者名:Me | 作成日時:2021年9月23日 18時