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Aは犬触るの苦手って言ってたけど、俺を犬のように扱うのは上手だと思う。
仕事中なんか特に。
待ても、ご褒美も、しつけとかその他もろもろ。
俺を上手にコントロールして、いつだってAに触れたい、ちょっかい出したい俺の気持ちごとちゃんと整理してくれて、仕事に集中できるよう整えてくれるからすごい。
ただ、それが人にするような感じじゃなくて、なんて言うか、言葉は人間なんだけど…
態度とか、視線とか。
そう言うのがホント犬が犬にするような感じで、ちょっとおもしろい。
今もほら、大舞台に浮足立って、不安で落ち着きが無くなってる俺をシャンとさせるために、頬に軽く指当てて俺の視線を固定して、
『ジミン、いい?視線うろうろしないで。失敗しても、いいの。あなたは世界で一番素敵で、かっこよくて、素晴らしいから』
って、俺世界最強な感じの暗示を掛けてくる。
「そう?」
俺はすぐにその気になって、Aの言う通りの人間なのかな?ってちょっと思い込もうとする。
Aは付き合ってみると、ほんと思いの外饒舌で気持ちを隠すことを知らなくて、そこがどこでも、俺たち以外に人がいたって気にしない。
あんまりあっけらかんとしてるから、スタッフは皆俺たちのこのバカップルっぷりにもう慣れっこだ。
『そうなの。だから、そんなあなたはミスなんかしない。あなたがもしミスしたって思っても、全世界の人がそれミスじゃないって言ってくれるから』
「Aは?言ってくれないの?」
Aが全世界なんて遠巻きな言い方する時は、大体自分を含めないから、俺は気になって突っ込んで聞いてみる。
『私?私はジミンと一緒に失敗は失敗だって受け止める。でもいいでしょ?その後たっぷり二人で、反省会するんだから』
ほら、なんつーご褒美上手なこと!
俺はもう緊張とか吹っ飛んで、若干ふにゃふにゃしながら、Aに送り出されてスーツの着替えを待つスタイリストさんのところによろよろ向かった。
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作者名:フネ55 | 作成日時:2023年1月28日 22時