考えまして。 ページ11
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「……脱落は、したくないんだどなぁ」
「ハッ、考え事してた奴が何言ってんだか」
私の言葉を鼻で笑い飛ばすと、オニになった下まつげくんはボールを蹴った。すごい速さで向かってくるボールは、躱すのが困難という程では無く難無く躱すことが出来た
モニターに写った名前は、糸師凛。……糸師冴の、弟だっけ
「チッ、避けんなよ。めんどくせぇ」
「脱落したくないんだから避けるでしょ」
「少しぐれぇ本気になってみたらどうだ」
ボールをもう一度蹴った糸師くんは、相も変わらず冷たい目で私を見る。やっぱり躱せない程速いわけでは無いボールを、避けようと左へとズレるが
「あ」
「……お前、さっきから左にしか避けねぇよな」
バレてたのか。一直線に私へ向かってきていたボールは、私を追いかけるように左へと曲がって私の足へ当たる。それと同時にモニターの表示は「帝襟A」に変わった
「後100秒……。」
……たしかに、糸師くんの言う通り、私は他の人に比べたらとても中途半端な存在だ。サッカーを始めたのは2週間前で、此処に居る人の中で誰よりも歴が浅い。
特にサッカーに思い入れがある訳でも、憧れの選手がいる訳でも、サッカーをしている家族がいる訳でもなんでもない。ただ、"人に言われて"やり始めた意志の無い人間だ。
それに合わせて、あの扉をくぐったのだって豹馬くんに引っ張られたからだし、戻らなかったのだって「なる様になれ」なんていう曖昧な気持ちがあったから。
だけど
「私には、どうしても脱落出来ない理由があるんだよ」
「…どうだかな」
当てられて私から少し遠くなったボールを手繰り寄せ、リフティングをしながら思考を巡らす。動き回って脳が動かなくなっては逆効果。これくらいの事は許してほしい
絵心さんは何故私たちにこんな事をさせるんだろう。もしこの入寮テストで実力の無い人間を蹴落としたいだけならば、下のランキングの者を無差別に落とせば良い。いや、それが私達なのかもしれないけど。Vまで来る時にZやXがあったから、私達よりもランキングが下の人達が集まっているのだろう
じゃあ何故実力がある者まで脱落してしまいそうなオニごっこが入寮テストなのか。
「オイ、早くしろ。勝ち逃げでもするつもりか」
「……勝ち逃げ?」
「ずっとボールキープして最後にブッパするつもりか?俺がさせねぇよ」
……なるほど。
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