1-6 ページ7
.
インクペンは記録室の棚の上にあって、思いの外あっさりと当初の目的は達成された。(こんな所に置いたっけなぁ)なんて思いつつそれを胸ポケットに挿して、循環室に行くべくプールサイドに出る。
もうすぐ梅雨が来るというが、今日はカラッと晴れた天気。眩しいなぁと細めた視界の先に、ゆらりと人影が見えた気がした。
「えっ……?」
部活もなければ、OBが来るという連絡もない。
誰もいないはずのプールサイド、飛び込み台の上に、知らない人が立っている。こちらの存在に気付いていないのか、ゴーグルに手をかけて そのまま上体を傾けると、
パシャん……
ほとんど水飛沫の上がらない、綺麗な弧を描いて飛び込んだ。
(上手い……)
“それが誰か”なんて疑問が吹っ飛んでしまうほど、見惚れるスタート。
すーーっと水中で5メートルラインを超えていき、水面から顔を出したと思えば流れるような息継ぎ。一目で競泳経験者だとわかるフォームに、高鳴る鼓動を抑えながらプールサイドを歩く。
短水路の折り返しでカウントはおよそ12秒。
こんな早い人、うちにいたの?
飛び込み台のところまで来れば、脱ぎ捨てられたジャージがあって。ラインの色が緑だから……2年生か。
何年生でもいいんだけどさ。と心の中で1人突っ込んだ。あまりに流麗な泳ぎを前に呆気に取られるとはこの事。
正面から見た彼の泳ぎはほとんど左右にブレる事なく、一直線でこちらに向かってくる。
私は下からスカートの中が見えないように膝裏に裾を巻き込みながら、プールサイドに足をかけてしゃがみ込む。
ものの数秒で戻ってきて、水中からプールサイドをタッチした彼は、頬杖をついて上から見下ろす私を認識して目を見開いた。
「あっ、」
驚きが彼の声色に現れている。
ゴーグル越しでも分かる、綺麗であどけない表情に思わず口角が上がった。
「
高鳴る胸を押さえて聞く。数回目をパチパチさせた彼は、数秒待ってやっと言葉の意味を咀嚼したのか ゆっくりと口を開いた。
「………
(来た!)と、運命めいた出会いに一層強く打つ胸の鼓動が、彼にバレてしまわないか心配だ。必死で冷静に頭を巡らせて、ようやく自分が名乗りもせずに 話を切り出してしまったことを思い出した。
「はじめまして。3年の黒田Aだよ、えっと……」
「2年の廣瀬真人です」
知らない名前。
でも今はそんな事、どうでもいい。
「……廣瀬くん、水泳部に入る気はない?」
交わった瞳は、銀色に輝いている。
.
88人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
祐莉 - お久しぶりです! 更新いつまでも待ってます。 (2022年10月21日 20時) (レス) id: 141db64209 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» ゆっくり更新になりますが、是非お付き合いください😌💓水とお友達のびふぁ君たちを書きたかった…! (2022年10月8日 2時) (レス) id: 8cbda2bab5 (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - 新しい小説〜!これから、楽しみですぅ( ꈍᴗꈍ)水泳部。。。想像しただけで、よだれが。。。(笑) (2022年10月7日 8時) (レス) id: 9b3b932bb4 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - 祐莉さん» お久しぶりです。またまた私でなんだか申し訳ない(笑)ゆっくり更新していきますので、気長にお付き合いいただければ嬉しいです(^^) (2022年10月3日 4時) (レス) id: e5900b4b59 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - BESTY さん» はじめましてこんにちは!色々とお読みいただいているようでありがとうございます(^^)ゆっくり更新にはなりますが、楽しんでいただければ嬉しいです。 (2022年10月3日 4時) (レス) @page12 id: e5900b4b59 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白 | 作成日時:2022年9月30日 22時