交われば色付く合図 -eyes-

1-1. 始まり ページ2

第一話




週末にあった春季大会の動画を見たいとかで、後輩が授業中に引くほどの催促ラインを送ってきた。そんなの部活のときに渡すから家で見なよと思うけど、なんか、クラスメイトに見せるとかで 絶対にお昼休みまでに欲しいみたい。じゃあせめて自分から取りに来なよほんと。




「壮大ぁ〜、先輩来てる〜」




ただでさえ違う学年の廊下に来るだけで緊張するのに、教室の入り口でおっきな声を出されたもんだから、望んでいない好機の視線に晒されて縮み上がった。

教室の最奥、窓際の後ろから2席め。茶っこいフワフワの髪の毛、眠たげな幅広二重がこちらを見る。「あー、さんきゅー、A先輩！」……敬語どこに置いて来た？




「入っていいかな？」

「あ、どうぞどうぞ」




椅子に腰掛けたまま動く様子のない彼にため息をついて、一応入り口の彼に許可を取ってから教室に入室する。対応してくれたことも含めて「ありがとう」と声をかけてから、後輩達の視線をくぐり抜けて彼の元へ足早に歩を進めた。




「壮大、先輩をもっと大事にしよ」

「え、おれ A先輩だぁーいじにしてない？」

「最近周期的に舐め腐りムーブ来てるよ。はい、使い方わかるよね」




誰に影響されたんだか、今年に入ってだいぶフランクになった。まあ、懐いてくれて良かったと取るべきなんだろう。

壮大にカメラを差し出せば、嬉々として受け取る。「ありがとう！」と笑う顔が可愛いから憎めないんだよね。




「水泳に興味ある子でもいるの？」

「んー、俺の予想では、ある！」

「なに。どういう事」

「まあまあ。まだ内緒にさせて」

「………」

「や、いや！まじ任せて！」

「なんも言ってないけど」




何を任せればいいかも言わないくせに、勝手に焦っている。まあいいや、先輩も言ってたけど壮大は宇宙人だから、全部理解しようとすると感性がいくつあっても足りない。




「無くさないようにね、まだコピー取ってないの」

「おけおけ！」

「ん。じゃあ、また部活で」




いい加減周りの視線にもキツくなってきた。クルッと振り返って、「ありがと！」という声を背に ほとんど周囲に目をやる事なく一直線に出口へと向かう。




ドンッ




「あ、ごめんなさい」

「……こちらこそ」




出口付近で学ランとぶつかった。鼻を抜ける爽やかな香りを感じながら 辛うじて反射的に謝罪は出たけど、気まずすぎる空気にほとんど視線を上げられない。

シトラスの香りがする相手を大して見ることもなく、(サークル本数増やしてやるからな〜)と ちっちゃな仕返しを脳裏に浮かべながら教室を飛び出した。



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