Family２

拭い去れない ページ13

「何してんだ、こんなとこで」

『お前を迎えに来たんだよ』

「迎え…？」


怪訝な表情を浮かべるベッキョンさん


『お前には家があるんだ。人様に迷惑かけず帰ろう』

「……」

『充分時間も経った。もう良いだろう』

「…

…もう良い、って何だよ。


あんたの中では時効かもしれないけど
俺にとっては…何も、変わってない」



怒りか憎しみか

それとも恐怖なのか


握りしめた拳が震えている



「俺は、帰らない」

『ベッキョナ』

「あんな家…俺が帰りたいと思うか？
あんたと一緒に暮らすなんてお断りだ」

『我儘ばかり言うな。子どもじゃないんだから』



何だろう

この 違和感



ベッキョンさんのお父さんは
落ち着いた様子で、本当に我儘で家出をした子どもを宥めるような口調だけど


ベッキョンさんの瞳は

何かに怯えているようだ





“嫌い、なんだ”

“病院、行きたく、ない”



あのときと同じ




真っ青な顔で
額には汗

呼吸も少しずつ荒くなってきているように感じる





『ほら、行くぞ』

「…っ

離せ！触るな！」




あ


ダメだ






「あの、

すみません」



これは

本能的なものとでも言うのだろうか



このままベッキョンさんを渡してはいけないと思ったんだ




「私、ベッキョンさんと話があったんです。
申し訳ないのですが、今日のところはお引き取りください」

『え？』

「ごめんなさい！本当にすいません！」


苦しそうに顔を歪ませているベッキョンさんの手を引いて、家の中に駆け込む


凍ったように冷たい手

不安定な呼吸



…普通じゃない

絶対に、何かがある




「くっ、…は……ぁ」

「大丈夫ですか？ベッキョンさん、落ち着いて」

「…は……あ、…」

「深く息を吸って、ゆっくり吐いて」


固く閉じられた目から涙が溢れていく


痛々しくて見ていられない



「ベッキョンさん、」


落ち着かせるために背中を摩ると


弱々しく伸ばされた手が

あたしの服を掴む




それが、まるで助けを求めているようで



「大丈夫」

「はぁ、はぁ…」

「大丈夫ですよ。

あたしが守ります」

「…っ…」



両手でしっかりと抱きしめ

“大丈夫”と言い続けた








ーーーーー



ーーーー

ーーー





真っ暗な部屋の中


遠くで母さんが泣く声が聞こえる





何かを投げたような大きな物音

強く叩く音

身体を蹴る音



何も見えなくても状況がわかるようになるくらい、何度も何度も経験してきた恐怖




次は俺の番だ

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