兄と私と彼

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野球部の掛け声を聞きながら校門を抜け、
ゲームセンター脇の建設現場の前に立った。




携帯を見れば、5時を少しだけ過ぎたところ。

工事の音は止んでいた。






『やっぱりいないよね』





別に期待してたわけじゃない。




もしも、
また会えたら昨日のお詫びをするつもりだった。





傘を持って帰っちゃってすみません。




その一言を伝えようと思っただけ。





ゲームセンターからは賑やかな電子音が聞こえて、制服姿の高校生が頻繁に出入りしていた。



肩からズレ落ちた鞄をもう一度肩にかけ直すと







「お疲れ様です」




複数の男の人の声が聞こえて、
建設現場の方を振り返る。




薄汚れた作業服の若い人達。




その中に、金髪の彼を見つけた。








「今日、飲み行きますか？」

「今日嫁さん居るから帰んねぇと、怒られるんだわ」

「大変っすね」

「隆二も結婚したら尻に敷かれるぞー」

「野田さんみたいにはなりたくないっすね」

「言うねー」





金髪の彼と、その先輩の会話。




隆二って呼ばれてる。

隆二って名前なんだ。





楽しそうに笑った顔は、やっぱり優しそうで、






『猫も幸せだね』





呟いてから


気づかれる前にと、踵を返してそこを立ち去った。







夕日の色が紫を濃くして、


家に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。

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