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どくり、と心臓が大きく脈打った。動揺で目を見張る私に彼は真意の読めない笑みを向け、再び窓の外へと視線を戻す。私の隣に座る敦さんは何のことか理解出来ないのだろう、首を傾げて不思議そうにしていた。
(真逆……気付いている?)
握りしめた掌に冷や汗がじわりと滲む。相変わらず大きく脈打ったままの心臓の音が、身体の中をかき回しているようだ。
考えすぎでないならば、彼の今の言葉は、まるでマフィアに居た頃のことを指しているようだった。だとしたら、一体いつ気が付いたのか。何故気付かれたのか。そして何より。
(この人はそれで、私をどうする
私の正体を見抜いたのなら、普通何もしないわけが無い。だが、先程の言葉は忠告のようにも受け取れた。一体何故、そんなことを云ったのか。
目の前の一見何てことなさそうな青年の得体が急に知れなくなり、私は小さく息を飲んだ。
***
氷点下の冷風に吹きつけられているような心地で辿り着いた目的地は河川敷だった。現場に足を踏み入れた私達の周囲で、警官達が忙しく調査をしている。
「遅いぞ、探偵社!」
そう云って私達を出迎えたのは、顰め面の刑事だった。箕浦と名乗ったその人は、明らかに胡散臭そうな目で此方を見ている。だが正直、今はどれだけ信用されていなかろうが、乱歩さんが変わらず尊大な態度をとろうが気にはならなかった。というより、出来なかった。
今の私は、乱歩さんにバレてしまったのではないかという多大な不安と、いつそんな素振りを見せてしまったのか、という回想で頭が一杯だったのだ。目の前の事に集中しなくてはならないことは判っているのだが、どうしても思考がそちらへ行ってしまう。
(やっと自由になれたのに、人を助けられると思ったのに。もし告発されたら……)
だが、上の空だった私の意識は、河川敷に置かれていたモノに被せられていたブルーシートが剥がされたことでほぼ強制的に引き戻された。漸く現実に立ち返れた事に安堵しつつ、シートの下にあったモノに目を向ける。それは、水に濡れた若い女性の遺体だった。
(溺死。――ではない、か)
何しろ胸元に銃創がある。ざっと見、3発撃たれているようだ。恐らくそれで殺された後、川に流されたのだろう。遺体は特に腐乱している様子も無く綺麗な方なので、まだ新しいものだと思われる。が、それ以上のことは、流石に私には判らなかった。
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霜夜華(プロフ) - ミオさん» ありがとうございます!大好きと言って頂けて本当に嬉しいですヽ(*´∀`)ノ頑張って更新しますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 647614d598 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(プロフ) - このシリーズ、本当に大好きです。続編も楽しみに待ってますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 181d62af7c (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - (^ー^)さん» 誤字ですね!すみません、修正します!ご指摘ありがとうございますー( ´ ▽ ` ) (2019年12月12日 1時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
(^ー^)(プロフ) - 広津さんが弘津さんになってます。 (2019年12月11日 23時) (レス) id: db654e8536 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年11月28日 1時