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冗談だろう。聞いた瞬間、私は耳を疑った。
何しろ列車に乗った経験どころか公共交通機関を利用したことすら無い私でさえ、携帯などを利用して調べて知っていた列車の乗り方を、一応20歳は超えているように見える男性が知らない筈がない。
だからきっと、方向音痴か列車を乗り間違えるだとか、そういう程度なのだとその時は解釈した。そう、したのだけれども。
「乱歩さん、そっちは新幹線!列車はこっちです!」
「江戸川さん、切符買わないと改札通れません――って、そっちは逆方向の列車のホームですからっ……」
――好き勝手に何処かへ行こうとする江戸川さんに振り回され、なんやかんやとあり、目的の列車に乗り込んだ時には既に私と敦さんは疲れ果てていた。
(まだ目的地にすら着いていないのに、列車に乗るだけでこんなに疲れるなんて。というか、帰りもまた同じことになったらどうしよう……)
げんなりしながら、相変わらず上機嫌に窓の外を流れる景色に視線を注ぐ江戸川さんの横顔を盗み見る。これまで一体どうやって生きてきたのか甚だ疑問に思っていると、不意に彼が私へ顔を向けてきた。
「ねえ、君、Aちゃんだっけ」
「……そうです」
動揺で一瞬跳ねた心臓を宥めながら努めて冷静に答えると、「ふぅん」と彼は細い目を開いて私の目をじっと見つめる。まるで私の中を無遠慮に探られているような、見透かされてような感覚に、背筋がざわりと粟立った。
「あの、江戸川さん……?」
「乱歩でいいよ。皆そう呼んでるし」
耐えきれなくなって声を掛けたものの、意図とは違う方向の答えが返ってきて私は口を噤んだ。その間も彼はずっと私を見ていて、小さな瞳には名状しがたい不思議な色が浮かんでいる。腹の底が冷えるような居心地の悪さ。どうにも覚えがあるそれを一体何処で感じたのかと考えれば、答えは直ぐに知れた。
(そうだ。太宰さんと初めて出会った時)
あの時も、彼はこんな風に凡てを見透かすような目をしていた。
「――君、探偵社に入る前は何してたの?」
「……っ」
触れられたくない場所をいきなり突かれ、言葉に詰まった。はぐらかそうが、嘘を吐こうが、この目の前では何を云っても見透かされる――そんな確信で、答えを直ぐに返せない。
「…何故、そんなことを?」
だから結局、苦し紛れにそう聞けば、「いや?」と乱歩さんは笑った。
「君は大丈夫そうだけど、しつこい猟犬には気を付けた方がいい。君は壊すのが得意だから余計にね」
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霜夜華(プロフ) - ミオさん» ありがとうございます!大好きと言って頂けて本当に嬉しいですヽ(*´∀`)ノ頑張って更新しますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 647614d598 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(プロフ) - このシリーズ、本当に大好きです。続編も楽しみに待ってますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 181d62af7c (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - (^ー^)さん» 誤字ですね!すみません、修正します!ご指摘ありがとうございますー( ´ ▽ ` ) (2019年12月12日 1時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
(^ー^)(プロフ) - 広津さんが弘津さんになってます。 (2019年12月11日 23時) (レス) id: db654e8536 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年11月28日 1時