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11-1 ページ15

何故か杉本さんは俯いて、銃を見せる様子がなかった。数秒が経過してもそのままで、微動だにしない。箕浦さんが訝しんだ声を出してもまるで彫像のように沈黙しており、動こうとはしなかった。

「いくらこの街でも、素人が銃弾を補充するのは容易じゃない。官給品の銃であれば猶更」

乱歩さんの言葉に杉本さんはきゅっと唇を引き結ぶ。突然怪しくなってきた雲行きに、徐々に箕浦さんの表情から余裕が消えて行く。それでも乱歩さんだけはこの空気の中で、愉快そうに笑っていた。

(真逆、本当に?こんな直ぐ近くに犯人が?)

その上あんな短時間で本当に推理ができたというのか、と次々胸の内で疑念が湧き、同時に沈黙する杉本さんへの不信が募っていく。彼は矢張り、黙ったままだ。

「彼は考えている最中だよ。減った三発分の銃弾について、どう言い訳するかをね」
「オイ杉本!お前が犯人の筈がない、だから早く銃を渡せ!」

殆ど縋るような箕浦さんの声に、漸く杉本さんは動いた。のろのろとした緩慢な動きで腰に付けたホルスターへ手を伸ばし、中の銃を掴み、そして。

――安全装置を、外した。

ピリッと皮膚を刺すような殺意に反射で身体が動いた。杉本さんが乱歩さんへと銃を向けるのとほぼ同時に地面を蹴って飛び出した直後、同じくそれに気付いたらしい太宰さんが敦さんを突き飛ばした気配に、瞬時にやろうとしていた行動をサポート目的のものに切り替える。

「止めろ!」

悲鳴のような箕浦さんの大声が空気を震わせる中、私は思いきり姿勢を低くしながら左手を地面に突いて、右回し蹴りの要領で杉本さんの両脚を払った。コンマ一秒後、ガクンと前のめりになった杉本さんの背に敦さんが飛びつき、体勢を崩した所為で上向いた銃を持った彼の右手を掴み上げた後、空へと銃弾が放たれる。
そのまま重力と勢いに従ってうつ伏せに倒れ伏した杉本さんの左手を敦さんはねじり上げ、まだ握られたままだった銃を私はもぎ取り安全装置を元に戻した。

「お、やるねぇ」

感心する太宰さんの呟きを聞き流しながら、私は銃を乱歩さんに渡そうかと少し考えて、必要は無いと判断した。

(乱歩さんに向けて銃を撃った。それだけで、答えはもう出てる)

薄く硝煙を上げている銃のシリンダーには、先程の1発を含めた4発分の弾丸の姿が無かった。

11-2→←11.名探偵の能力



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霜夜華(プロフ) - ミオさん» ありがとうございます!大好きと言って頂けて本当に嬉しいですヽ(*´∀`)ノ頑張って更新しますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 647614d598 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(プロフ) - このシリーズ、本当に大好きです。続編も楽しみに待ってますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 181d62af7c (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - (^ー^)さん» 誤字ですね!すみません、修正します!ご指摘ありがとうございますー( ´ ▽ ` ) (2019年12月12日 1時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
(^ー^)(プロフ) - 広津さんが弘津さんになってます。 (2019年12月11日 23時) (レス) id: db654e8536 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年11月28日 1時

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