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冷ややかにドラム缶木乃伊を見下ろしていると、話を聞き終えた中島さんは恐る恐ると云った体で私の顔を窺い見た。

「と、取り敢えず助けます……?ええと、早苗、さん。あっ、下の名前で呼んで大丈夫ですか?名字判らなくて……」
「え」

そういえばちゃんと名乗っていないのだった、と指摘されて初めて気が付いた。昨日は何だかんだで太宰さんが云ってしまったから、そのまま流してしまっていたのだ。
少しだけ教えてしまっても大丈夫だろうかという不安が首を(もた)げるが、ここまで関わったのならもう教えても教えなくても変わらないだろうと口を開く。

「名字は安部。でも、下の名前でいい。呼ばれ慣れてるから」
「そうですか。良かった……。あ、僕も下の名前で大丈夫ですよ」
「……判った。敦、さん」

何だか少しだけ面映ゆくなりながら、私は敦さんと二人がかりでドラム缶を倒した。その拍子にごつんと太宰さんが後頭部を地面にぶつけたが、私と、そして意外にも敦さんも無視をした。完全に自業自得である。

「あー、痛かった。ありがとう二人共。お陰で腰が折れずに済んだ」

ずるずるとこれまた二人がかりで太宰さんを引っ張り出すと、彼は立ち上がってゴキバキと音を立てながら躰を動かした。どうやら異常は無いらしい。いっそぎっくり腰にでもなってしまえば、いくらこの人でも流石に反省した気がするので、少し残念だ。

(それにしても、本当にどうしてこんな人がモテるんだろう)

昔からどうにも私はそれが不思議でならない。容姿は確かに良いが、この奇行を前にすればその長所はあっという間に霞んでしまう筈である。
おまけに某人物の話では、付き合ってきた女性を(ことごと)く泣かせてきたらしいので、益々謎が深まるばかりだ。

「それじゃあ二人共。一寸私についておいで」

私がそんな事に思考を巡らせていると気付いているのかいないのか、太宰さんは何事も無かったかのようにスタスタと社員寮の外へ向かって歩き出す。私と敦さんは少し戸惑って一瞬だけ視線を交わしたが、従わない理由も無いのでそのまま大人しく彼の後を追いかけた。

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霜夜華(プロフ) - 有彩さん» 遅れましてすみません!公開しました!そしてお褒め下さってありがとうございます(*^_^*) (2019年11月28日 1時) (レス) id: 64f91c64f2 (このIDを非表示/違反報告)
有彩 - とても面白くい作品です!!続編が、楽しみです!何日くらいに、なるのでしょうか! (2019年11月28日 0時) (レス) id: b0517c2008 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - 細波幸近さん» ありがとうございます!のんびりですが、続きも頑張って書いていきますね!(*´ω`*) (2019年11月16日 21時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
細波幸近(プロフ) - いつも読ませて頂いています!とても面白会です! (2019年11月16日 21時) (レス) id: a768fd0174 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - かぼすジュースさん» ありがとうございますー!ノロノロ更新ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです! (2019年8月5日 22時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年6月10日 15時

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