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3-1 ページ13

ビクリと大きく身を震わせた中島さんは、恐る恐る音のした方を振り返った。

「今……そこで物音が!」
「そうだね」

再び悪趣味な本の(ページ)(めく)りながら、太宰さんはいっそ奇妙なまでに淡々と答えるが、その冷静さは余計に中島さんの焦燥と恐怖を煽ったようだった。

「きっと奴ですよ太宰さん!」
「風で何か落ちたんだろう」

恐怖のあまり太宰さんの言葉を信じようとしない中島さんは木箱から下りると、青ざめながら音のした方から離れ始め、「ひ、人食い虎だ。僕を食いに来たんだ!」と譫言(うわごと)のように叫んだ。そんな彼に、太宰さんは極めて落ち着いた声を掛ける。

「座りたまえよ、敦君。虎はあんな処からは来ない」
「ど、どうして判るんです!」
「もし君の云う通り虎がこの倉庫に来ていたのだとしたら、まず早苗が気付くから」
「え……?」

戸惑った顔を此方に向ける中島さんから視線を逸らし、私はフードの下で太宰さんに抗議の目を向けた。確かに別の気配が来れば猛獣だろうが気付く自信はあるが、あまり引き合いに出さないで欲しいものだ。
そんな私の思いに気付いているのかいないのか、太宰さんはパタンと両手で本を閉じると口を開いた。

「そもそも変なんだよ敦君。経営が傾いたからって、養護施設が児童を追放するかい?大昔の農村じゃないんだ。いや、そもそも経営が傾いたんなら、一人二人追放したところでどうにもならない。半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋だ」
「太宰さん、何を云って――」

中島さんが不可解そうにしたその時、雲が晴れ、強い青の月光が倉庫内に降り注いだ。それに導かれるように窓へと目を向けた中島さんは、青い満月をその目に映した途端不自然に動きを止める。そしてその瞳孔が猫のように鋭く収縮したのを見た瞬間、私は漸く事態を理解した。

(――そういう、こと)
 

3-2→←3.月下に現る白虎



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霜夜華(プロフ) - 有彩さん» 遅れましてすみません!公開しました!そしてお褒め下さってありがとうございます(*^_^*) (2019年11月28日 1時) (レス) id: 64f91c64f2 (このIDを非表示/違反報告)
有彩 - とても面白くい作品です!!続編が、楽しみです!何日くらいに、なるのでしょうか! (2019年11月28日 0時) (レス) id: b0517c2008 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - 細波幸近さん» ありがとうございます!のんびりですが、続きも頑張って書いていきますね!(*´ω`*) (2019年11月16日 21時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
細波幸近(プロフ) - いつも読ませて頂いています!とても面白会です! (2019年11月16日 21時) (レス) id: a768fd0174 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - かぼすジュースさん» ありがとうございますー!ノロノロ更新ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです! (2019年8月5日 22時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年6月10日 15時

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