3.月下に現る白虎 ページ12
静かで深い響きを持つ潮騒が届く、港の西倉庫。その中で私達三人は、それぞれ木箱に腰掛けじっと虎が現れるのを待っていた。
倉庫の中は薄暗く、天井近くの窓から入る月光以外に光源は無い。にも拘らず、そのぼんやりとした月明かりを頼りに太宰さんは読書をしている。しかもその本の題名は『完全自 殺読本』と書かれており、心の底からドン引きした。
太宰さん以外に自 殺が趣味の人間などいないと思っていたのに、わざわざそんなものを取り上げて書く作家が居るとは衝撃だった。そして其れを売っていた本屋は一体何を考えていたのだろう。こうして需要があったとはいえ、かなり妙な選択だ。
(変な人って案外多いんだろうか……)
果たしてこの世は大丈夫なのだろうかと案じていると、不意に中島さんが不安そうな面持ちで太宰さんに声を掛けた。
「……本当に、ここに現れるんですか？」
「本当だよ」
本から顔を上げないまま、太宰さんは即答した。そして尚も不安そうにする中島さんを見て、ふっと微笑む。
「心配いらない。虎が現れても私の敵じゃないよ。こう見えても武装探偵社の一隅だ」
私はその言葉に少々疑念を抱いた。猛獣相手に生身で戦える人間など一部を除いて存在しない上、太宰さんの体術は中堅以下だ。となれば対抗するには異能しかない。
太宰さんの異能は他に例を見ない特殊な類いのものだが、猛獣に効果は無く、寧ろ返り討ちに遭うのがオチだ。真逆虚勢だろうかと思ったが、彼に限ってそれは無いと直ぐに否定する。で、あるならば。
(猛獣にも、太宰さんの異能が効くということはつまり――……)
答えに手が届きそうになったところで、中島さんが小さく笑い声を上げた。それは卑屈で、自嘲気味な笑い声だった。
「はは。凄いですね。自信のある人は。僕なんか、孤児院でもずっと『駄目な奴』って言われてて――。そのうえ、今日の寝床も明日の食い扶持も知れない身で。こんな奴が、どこで野垂れ死んだって。いや、いっそ虎に喰われて死んだ方が――」
悲愴な言葉を吐き出し、それきり黙り込んでしまった中島さんを太宰さんは無言で見つめる。そしてふと、窓越しに空を見上げた。
「却説――そろそろかな」
その言葉につられて私も窓を見上げると、其処には半分雲に隠れた月が顔を覗かせていた。
(今夜は満月だったんだ)
そんな感想を抱いたと同時、突然大きな物音が倉庫に響き渡った。
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霜夜華(プロフ) - 有彩さん» 遅れましてすみません！公開しました！そしてお褒め下さってありがとうございます(*^_^*) (2019年11月28日 1時) (
レス) id: 64f91c64f2 (このIDを非表示/違反報告)
有彩 - とても面白くい作品です！！続編が、楽しみです！何日くらいに、なるのでしょうか！ (2019年11月28日 0時) (レス) id: b0517c2008 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - 細波幸近さん» ありがとうございます！のんびりですが、続きも頑張って書いていきますね！(*´ω｀*) (2019年11月16日 21時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
細波幸近(プロフ) - いつも読ませて頂いています!とても面白会です! (2019年11月16日 21時) (レス) id: a768fd0174 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - かぼすジュースさん» ありがとうございますー！ノロノロ更新ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです！ (2019年8月5日 22時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：霜夜華
| 作成日時：2019年6月10日 15時
