大樹VS司 ページ48
「間引いているんだ。新しい世界のために」
司が、思っていたよりも早く戻って来てしまった。
その手からは、ぱらぱらと石像を砕いた後であろう欠片が手からこぼれている。
大樹はそれに目を見張り、顔つきが変わった。
「………千空、A、もしものときは杠を頼む。司は俺が止める!!」
「なっ、大樹……!」相手を考えろと言いたい。
司は素手でライオンを殺める力を持っているのだ。
咄嗟に、二人を止めるためか部長があのクロスボウを構え、放つ。
司はそれをいとも簡単に掴んで地面に突き刺し、大樹に強力な蹴りを与えた。
「ぐっ………!!」
(大樹…!!この状況でもなんで攻撃しない……!)
大樹は呻きながらも耐えていた。
「……俺の蹴りを受けて倒れなかった人間は初めてだ。
うん、それ以前に、君は今攻撃できなかったんじゃなくて、する気がなかった。
どうしてだ？」
大樹は服の前を開きながら言い放つ。
「俺は人を殴らん！だが俺をいくら殴っても蹴っても構わん！
そのかわり！石像を壊すのはやめろ！人を殺すのは悪いことだー!!」
「…………。大樹、君の主張を整理すると、自分は手を出さず殴られ続ける。よって石像は壊すな。
そういうことかい？」
「そういうことだ!!」
司は少しの間、口元に手を当てて考えていたが、やがて眉間にシワを寄せて呟いた。
「意味がわからない。なんの取引にもなってない」
(た、大樹…………それは司の言うとおりかな…)
部長も笑いながらクロスボウを持つ手が震えている。
「もし君が邪魔だてするなら……」
「いくら攻撃されても俺はお前を止めることをやめんぞ！」
大樹は一生懸命になっている。が、どうやら無駄なようだ。
「復活したばかりのその子、
杠を殺すと言ったら？」
「……!!!」
杠を人質にする。さっきはそう思ったが、殺すという可能性もあるのか。
大樹はばっと、杠を庇うように司に立ちはだかる。
しかしその矢先、司から受けたダメージが効いたようで、ばたりと倒れてしまった。
「大樹くん!?」杠が駆け寄った。
「効いてやがったか…出血がひでえ。何日か寝かしとくしかねぇな」
「大樹……」
司は私たちを見て、
「……うん、仲間割れはよそう。君は杠を守ってやれ。赤の他人の石像なんかよりも。
俺も自分のやるべきことをやる。邪魔はさせない」
と、そう告げて森へと消えた。
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作者名：長庚 | 作成日時：2023年8月29日 22時
