杠復活(嘘) ページ35
「杠。今助けてやるからな!!」
大樹が石の杠にそう呼び掛けて、ナイタール液(以後復活液) をかけようとした。
あの大木でずっと守られてきた杠の石像。
……ようやく、杠と話せる……。高校生の杠の姿が見られる━━━━━
………その時だった。
大樹が深刻な顔をして叫んだ。
「はっ…!!
待て!!千空!!」
「!!?」部長が反応する。
大樹があまりにも険しい顔つきになっているので、私も身構えてしまう。
(な、何……!?)
「………杠は、はだかだ!!」
刹那、大樹は部長に強烈な目潰しを喰らわせた。
「は……………」
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
(大樹…………。気持ちは分かるような気がするけど…、部長がすごく白目になってる…)
部長はすごい顔だった。怒っている、というか面倒くさそうだ。
「まっった非合理的な事言い出しやがった……別にいいだろこんな非常時に」
「部長……まあそう言わずに」私もほぼ呆れながら言う。
「ああAの言うとおりだ!!まずは服を着せてからだ!!
A!!おれは服の作り方とかよくわからん!!だから教えてくれ!」
少しだけ意表を突かれた。てっきり、"服を作ってくれ"とだけお願いするとかと思っていた。
大樹のこういうどんなところでもやる気があるのはすごくいいことだなあと、感心できる。
「ほう?いいよ。私も服を縫ったことなんて殆どないけどね」
「構わん!頼む!」
「あ゛ー、二人仲睦まじく話してんのはいいが、つまり俺たちは一回キャンプに戻って、またここに来るって事か?」部長が割り込んで訊いた。
「そうだね。革もここにはないから、やっぱり戻ろうか……」
「おおー!じゃあ俺は杠を持って行こう!!」
大樹がひょいといとも簡単に杠の石像を持ち上げた。
時である。
「……!!
待て!!デカブツ、A!!」
「!!?」
今度は部長が声を張り上げた。
部長が警戒する方向から、動物の低く唸る音が聞こえる。
「……………!!」
大樹ですら、声も出さずに驚いている。
それは、かつて私が子供の頃に図鑑で何度も読み返してはその怖さに震え上がっていた、あの最恐の肉食動物である。
寒気と、同時に額から汗が流れた。
(あっこれ、もしかして私たち終わった感じの……)
そう思うより先に、部長が言った。
「全員走れ!!逃げんぞ!!」
78人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「女主」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:長庚 | 作成日時:2023年8月29日 22時