味見と、春 ページ33
ぶどう酒をつくろう計画は思っていたより調子がよかった。
ブドウを潰してから3週間後に味見してみたが、すごく美味しくなかった。
大樹が飲んでからゲホゲホしていたくらい。
大樹がぶどう酒を全部飲んで、言った。
「Aー！酒を美味しくする方法はないのかー!?」
何だか自分の知識を教えられるのは嬉しい。私はニコニコして答えた。
「そうだね…砂糖を入れれば甘くなるし、好みの味になった時に冷やして発酵を終わらせれば、今よりずっと美味しくなるよ」
「いやこれ飲用じゃねえぞ。ナイタール液のアルコールにすんだよ」部長がすかさずツッコミを入れる。
「分かってるって。蒸留して、早くアルコール作ろう」私はぶどう酒を飲み干した。美味しくないが割と私好みかもしれない。
大樹が理解したように頷く。
「なるほど蒸留かー！って蒸留って何だー!?」
理解はしていなかったようだ。部長が呆れたように笑う。
「言うと思ったわ。『はじめようワインの蒸留 ブランデーの作り方』だな」
「おおー!!それで、その蒸留って何なんだー!?」
「あ゛ぁ、メソポタミア文明の連中も土器でやってたんだ、やってやれねえことはねぇ。
唆るぜこれは!!」
「蒸留って何なんだー!?千空ー!!」
「部長……蒸留の意味を説明しないと、ぶどう酒をおかわりするよ……」
「あ!?何をするだって!?」
「あはっ、おかわり、だよ。おかわり!」
＊＊＊＊＊＊＊ ＊
部長と、大樹と、私で過ごした日々はあっという間だった。
秋、冬、春を越して石化を解くための道を手繰ってきた。
冬に猛烈な寒さと雪に襲われ、何も出来ずに三人でハウスの隅に縮こまっていることもあった。
石化後の景色は鮮やかに、私の記憶の中に収まっている。
もし、私が今、目が見えないままでも、きっと大丈夫だ。
何故かって、すごく楽しいから。
皆の声を聞いて、川の流れや鳥の鳴き声に耳を澄ましているのが落ち着いた。
だけど目が見えるようになってから、もっと楽しくなった。
3年、いや何千年という時を闇の中で過ごした私は、新しい世界が見ることができた。
ずっと起き続けることに、ちゃんと意味があって、本当によかった。
そして
今日も全て失敗かと思われた数々実験の中で、私たちは石像しか置いていない研究室に、
石片が付いた、一枚の鳥の羽根を見出だした。
＊＊＊＊＊＊＊
まだコハクも出てませんね…申し訳ありません…急ぎます(◎-◎;)
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作者名：長庚 | 作成日時：2023年8月29日 22時
