チップと怪我 ページ31
イノシシの肉は塩漬けにしてから、数時間かけて乾燥させた。
その間に、チップを作らなくてはならない。
私は軽い足取りで森の中を歩いた。
「何の木にしようかな〜。サクラとかがやっぱり定番だよなぁ」
サクラ、リンゴ、クルミ、ナラ辺りがスモークチップとして使われている。
リンゴの木なんて生えてるだろうか?まさか絶滅とかしてたり……。
というか、他の木も3700年の形から程遠いものになっていたりしない、よね…
多少、いやかなり心配だったが、森の奥まで踏み入ると、普通にリンゴの木に実がなっているのを見つけた。
どころか、ナラやクルミも近くに"ごくごく普通ですよ〜"と言わんばかりに立っていた。
予想をいい意味で裏切られた。
「これだけあったらもういっそ全部混ぜちゃおうかな…楽しみだな〜」
木の下に落ちていた棒を拾い集め、うきうきしながら拠点に戻ると、部長は採集した植物を選別していた。
「ただいまー」
「おー。あ?A、なんかあったのか?顔がすげえ浮かれてんぞ」
「ううん。リンゴの木があったんだ。実もなってたよ〜」
私がリンゴを差し出すと、部長は遠慮なくそれを掴み取った。
「洗ったから、食べていいよ。おやつとしてどうぞ」
「おおそりゃおありがてえ。ありがたく頂くわ」
それを聞いてから、私は踵を返して火お越しの場所の辺りに籠を置いた。
私はそこに座り、籠から取り出した棒たちをしばらく見つめたあと、小さな(手作り)ナイフで細かく切っていく。
部長はちらりと私を見たが、すぐに作業に戻る。
(まあ手が止まってるとか、言われたくないもんね)
内心で笑いながら、切る手から目を離さない。
(もっと薄くかな?いや、多少厚くてもいいのかな?加減が難しいな…いやでももう少し薄くても…
それにしてもこの枝固いな……うぐぐ……)
あっ。
枝を切ることができた。
しかしそれまで枝に加えていた猛烈な力は、真っ直ぐ私の方へ向かってきて……。
「………いてっ!!つ〜…切っちゃったかー……洗いに行こう……。
…………って、出血が止まらないな……。一応ヨモギでも当てておこうかな」
部長の近くのたくさんの籠には、色々な野草が入っている。
そこにヨモギもあった筈だ。
つまりまあ、部長の近くにあるのだからもちろん、私の怪我も見られる訳であった。
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作者名:長庚 | 作成日時:2023年8月29日 22時