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ホンシュウジカって何なん? ページ20

なんと部長は塩を持っていなかった。

「う゛、ん。部長が塩を持ってないとは思わなかった」

「仕方ねえだろ、俺だって起きたのは二週間前だ。塩取るよか優先することなんざ沢山ある」

私と部長は今、罠に引っ掛かったこれまたホンシュウジカを食べている。

肉だからといって、解体を見学したことしかない素人が解体した獣がおいしい訳もない。

しかし命を頂いたからには、残すだなんて有り得ない。

「この近くには海があるんだ」

「あ゛ぁ。川が氾濫しまくって石像が流されたからな」

「…だから杠の石像と私達の距離が離れてたんだ」

そこで部長はぴたりと肉を食べる手を止めた。

「…杠?」

「…うん。杠、大木に絡まってた。多分その木はあの時の…」

そこまで言ってから、その木のことを思い出す。

学校の中の探索は欠かさなかった。

たとえ目が見えなくとも、それをハンデにしない、不自由になるべくならないようにと、手探りでどこに何があるかを覚えていた。

大樹があの大木の前て告白しようとしていた、というのは、方角的に私からは見えていた。

その大木が、杠を守ってくれていた。

だから杠は川に流されず、(私達は流され)、杠と異様に距離が遠かった。

「あぁ、言われなくてもわかる。A、明日杠が居たところまで案内してくれねぇか」

大層でもない食事を終えて、今は夜の休み時間のようになっている

「別に構わないけど、どうして。杠は私達のようにもとに戻っていない」

部長は少し間を置いてから言った。

「…探してえ奴がいんだよ。近くにいるかもしんねえ」

ああ。

聞いただけでも、誰かわかる。

大樹だろう。

昔からの親友は、やはり見つけておきたいのだろう。

…大樹は石化した時、何を考えていたのだろう。

「……とは言っても、考えてもすぐに寝てしまうか」

ぼそぼそと私は小さく呟いた。

(ん…、寝てしまう…)

私は、起きていた。

「部長は石化中は起きていたよね」

「あ?なんだ急に。起きてたっつっ言ったぞ」

そうなると今のところ私と部長の共通点は、石化中に起きていた、ということになる。

「部長はいつ起きたの」

「??二週間前だ」

私は一昨日起きた。二週間ほどの違いがある。

その違いは何なのだろう。

何かが部長より足りなかった?硝酸の影響があったのか?

…何が…

「ったく、テメーは一人でブツブツと何言ってんだ」

「……!」

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作者名:長庚 | 作成日時:2023年8月29日 22時

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