目が見えると誰か分からなくなる ページ15
私は目を見張った。
その草ばかりのところから、かき分けながら男が出てきた。
見覚えがない人だ。
私と同じように服を着ていた。髪の毛は逆立っていて、森に紛れそうな、あるいは逆に目立ちそうな緑色だ。
その男の真っ赤な瞳と目が合った。
「………」
男も目を見開いて驚いているように見えるが、何も喋ってこない。
ひょっとすると、彼にとって私が石化後の世界で初めて会った奴なのだろう。
誰だろうか…。挨拶でもしてみるか。
「あの…初めまして…?私…氷室Aっていいます。その…えっと……。…ここどこかわかりますかね…?」
「………」
なおも黙る男。しかしまた私が一方的に喋るのもどうかと思うので何も言わない。
しばらく沈黙がやってきたが、すると急に男の方が口を開いた。
「なんで…目が見えてんだ…テメーはよ」
はっとした。
その声一つ一つが、耳の中で再生された。
「なんで、見えてるのかは、わからないけど…あの、その」
そのすべてに聞き覚えがあった。
それは、何千年も前、私が最後に聞いた、あの口の悪い声と何一つ変わっていなかった。
「……。もしかして、部長、……?」
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作者名:長庚 | 作成日時:2023年8月29日 22時