- ページ7
・
「わぁ！！物がたくさんありますね、すごい」
「多分普通くらいかと……」
玄関に足を踏み出した第一声がそれであった。ちなみに僕の部屋は物が多いわけでも少ないわけでもない、至って平凡な部屋だと思う。多分、物が多いのは江口さんのような人の家で、西山調べによると、今まで見た部屋で物が少ないのは圧倒的キングオブキングで一宮さん。
妙にテンションが高い一宮さんの背中を押しながら浴室前まで行って洗濯機を回そうとすると、「うわぁ、ヘアアイロンがある！」と言われた。
「え、ないんですか？」
「ないですね。あったとしても戦争なんで、使いませんね。朝になんて」
「髪うねりません？」
「私生まれつき超ストレートなんです。コテとか使っても巻き取れちゃうタイプで」
癖毛はストレートを羨むし、ストレートは癖毛を羨む、なんてのは万人が知るすれ違いだと思う。まさに、隣の芝は青く見えるというものだ。
艶やかな黒髪を一眼見てから、「洗濯終わるまでうちいます？帰りますか？」と尋ねた。その間も彼女の瞳は、うちのちょっと高めのドライヤーに釘付けだった。
「流石に申し訳ないので帰ります」
「ちょっとしたものなら出せますよ」
苦笑いで言う彼女に笑いかけながら、少し寄っていきませんか、なんて意味を込めて尋ねてみる。僕はこの、奇妙な隣人のことをもう少しだけ知ってみたいと思っていた。相槌だけを打つのではなく、しっかりと会話のキャッチボールをしてくれるこの人を。もしかしたら外面なのかもしれないけど、でも気になったものは仕方がない。いわば要らぬ好奇心。
乗りかかった船から降りろという方が無理な話だ。洗濯機を貸すんだから、少しくらい僕の世間話に付き合ってくれるのも悪くないんじゃないかな。
一宮さんは、困った顔で「じゃあ……少しだけだけ」と遠慮がちに言った。この、自分より少し優位な人からの提案を断らないところが、なんだか社会に揉まれているんだなぁと思わされた。
僕は比較的先輩ならやんわり断ったりもするけれど、思い返せばそれも周りの環境のおかげ。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 302人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男性声優」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まほろ(プロフ) - morさん» 気付くのが遅くなってしまいすみません…。沢山褒めていただいて、私もモチベーションが上がりました（笑）これからもどんどん西山さんと一宮さんが仲良くなっていくので、是非完結までお付き合いください！ (2021年12月21日 7時) (
レス) id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
mor(プロフ) - 文章を書くのが上手すぎます…！！あとラジオの相槌の感じ（あの、とかを入れるタイミングとか）が絶妙すぎてめちゃくちゃ感情移入できます！！こんなに面白い小説久しぶりに出会いました、これからも応援しております！！ (2021年12月18日 1時) (レス) @page21 id: 06bc4acfa5 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - きゃらめるかも。さん» 素敵なコメントありがとうございます〜！これから長い長い物語になりますが、ぜひお付き合いくださいませ！ (2021年12月15日 7時) (レス) @page9 id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
きゃらめるかも。 - めちゃめちゃ面白いです！！ゴキブリの話とか！笑、その発想はなかったのでビックリしました！これからも、お体に気をつけて頑張って下さい！😆 (2021年12月14日 14時) (レス) @page4 id: 242d71ebf1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まほろ | 作成日時：2021年12月14日 7時
