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顔を上げないままで、「……でも画面の向こうには、私の知らない西山さんがいましたよ」と言う彼女の手を少し乱暴に掴み取る。


「でも、この家に住む西山宏太朗を知ってるのは、貴方だけですよ」


声優なんて二文字取っ払った、俺を見てくれ。俺という人間と、向き合ってくれ。
僕の痛切な思いを込めて、そう言った。この掴み取った手から、耳から、瞳から、彼女の全てで感じてもらえるように。


結論、やっぱり彼女は不器用な人だった。それでいて、俺も不器用でどうしようもないやつだった。

彼女も僕に心を開いてくれていたらしい。触れられることのなかった僕の職業を、どうやら信頼しているのは自分だけなのかと思ったのだとか。心地いいこの関係に切れ目を入れるような出来事で、もしかしたらこれは負担になるのではないかと考えたら、居てもたってもいられなかったと、コーヒーを飲みながら語ってくれた。


「思い返せば、私も随分子供じみたことを言いましたが、それより西山さん。いや宏太郎さん、相当カッコつけたこと言いましたね」

「……やっぱこの家出てきます?」

「勘弁してください。あっ、でも私がいなくなったら案外寂しいんじゃないですか」


先程までのしおしおとした雰囲気はなんとやら、いつもの調子に戻ってニヤニヤしながら言うAさんに一発、驚かせてやろうかなと思った。「そうですね、寂しくなります」と素直に言ってやると、目を丸くしてまたそっぽを向いた。


「照れてます?あれ」

「全く、恥ずかしいこと言っちゃって。クソ陽気なタラシはこれだから!」

「言い方。……まぁでも、リアルに、Aさんだからってのはありますから」


少しの沈黙の後、そっぽを向いたままのAさんが「ありがとうございます」と、それから「こんなに人に頼ったのは宏太朗さんだけです」と呟いた。胸がちょっとだけ、締め付けられて、未だに照れたようにする元隣人に、「これからもうまくやりましょう」と笑いかけた。貴方にしか見せていない、僕が笑った。



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まほろ(プロフ) - morさん» 気付くのが遅くなってしまいすみません…。沢山褒めていただいて、私もモチベーションが上がりました(笑)これからもどんどん西山さんと一宮さんが仲良くなっていくので、是非完結までお付き合いください! (2021年12月21日 7時) (レス) id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
mor(プロフ) - 文章を書くのが上手すぎます…!!あとラジオの相槌の感じ(あの、とかを入れるタイミングとか)が絶妙すぎてめちゃくちゃ感情移入できます!!こんなに面白い小説久しぶりに出会いました、これからも応援しております!! (2021年12月18日 1時) (レス) @page21 id: 06bc4acfa5 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - きゃらめるかも。さん» 素敵なコメントありがとうございます〜!これから長い長い物語になりますが、ぜひお付き合いくださいませ! (2021年12月15日 7時) (レス) @page9 id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
きゃらめるかも。 - めちゃめちゃ面白いです!!ゴキブリの話とか!笑、その発想はなかったのでビックリしました!これからも、お体に気をつけて頑張って下さい!😆 (2021年12月14日 14時) (レス) @page4 id: 242d71ebf1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まほろ | 作成日時:2021年12月14日 7時

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